男性であり、父親であり、教師であり、牧師である人がいたとする。この人は、男性とはどのようなものなのか社会から学び、社会が期待するような男性になる、あるいは、なろうとする。
この人は、父親には子どもの養育の責任があると社会から学び、それに沿うように生きる、あるいは、そうできないことを嘆く、あるいは、そのような父親像を放棄する。いずれにしても、この人にとって、父親であることは、社会が描く父親像に縛られることである。
人間は自分の意志で自由に生きているのではなく、社会の制度、通念、空気、思想などに縛られる。
「アイデンティテイ形成過程は、一般的に、非反省的・非計画的・準自動的なものなのだ」(p.179).
教師は生徒に教えることを当然とし、「教えてよいのだろうか」などと反省はしないだろう。牧師は毎週日曜日の礼拝で説教をすることを準自動的に当然視するだろう。
「社会は、われわれが何をするかを決定するだけではない。われわれが何者であるかをも決めてしまう」p.154)。
社会は、男とはこういうものと決めてしまう。わたしたちはそれに縛られている。
わたしたちは社会からの束縛や社会の決めた役割から脱出できないのだろうか。わたしたちは、社会の操り人形として、男性、父親、教師、牧師を演じさせられるしかないのだろうか。
これを突破する、というより、この社会を少しだけでも揺り動かす道を、バーガーはいくつか示している。
「ある社会の『自明な世界』を突破するという可能性は、ウェーバーのカリスマ論として展開されている・・・カリスマ的権威の範型は、『あなた方は・・・・・・と言われているのを聞いているだろう。しかしわたしはあなた方に言う』というイエスが繰り返し行った断言のうちに見いだすことができる」(p.207)。
なるほど。イエスはファリサイ派的律法学者的束縛社会を揺り動かそうとしたのだ。
しかし、これは世界全体を変えるまでにはならない。
「つまり、カリスマの持っていた根源性という牙を抜かれた形で、社会構造のうちに再統合されてしまうわけである。預言者に続いては教皇が、革命家に続いては行政官が登場してくる」(p.208)。
だが、ここで絶望してはならない。
「それだからといって、世界はそれ以前とまったく同じというわけではない。革命家たちが熱望し期待していたほどの変化はなかったとしても、そこには確かに変化があったのである」(p.209)。
「社会的に絶対的な権力というものが存在しないように、絶対的な無力も存在しない」(p.212)。
日米安保、沖縄の米軍基地、日本の原発政策、貧富の差、マイノリティ差別、資本主義による貧富の差による生活破壊・・・強い者、権力者たちが「社会はこんなもの」というイデオロギーをも武器に防衛する「虚偽=社会」は強固だ。
しかし、人間を縛る社会は人間の意識が構築したものでもある。びくともしないことはない。揺らすことも、少し変化させることも可能なのだ。集合的な意識の変化、あるいは意識の変化の積み重ねは、社会を変えうる。たとえば、人が人を差別するという事態は今も深刻だが、カリスマ的なあるいは他のタイプの努力によって、人権意識には変わってきた部分もたしかにある。
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社会学への招待 単行本 – 1979/4/1
- 本の長さ289ページ
- 言語日本語
- 出版社新思索社
- 発売日1979/4/1
- ISBN-104783510423
- ISBN-13978-4783510420
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登録情報
- 出版社 : 新思索社 (1979/4/1)
- 発売日 : 1979/4/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 289ページ
- ISBN-10 : 4783510423
- ISBN-13 : 978-4783510420
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,617,142位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2021年1月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2012年10月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
世の中をどのように見るかで、世界が変わる。
社会はもっともらしく、捏造されている。
社会学はその社会の本性を暴きだすのだ。それが、個人の生活に実在的な意味を与える。
社会に人間性をもたらす試み、それが社会学なのだ。
・・・そのような内容を本書は語る。
社会学とは何のためにあるのか、いろいろな考え方はあるだろうが、本書の考え方も納得できるものだった。
読みやすく、おすすめできる。
社会学にはいろいろな考え方がある。「社会学の歩み」「新・社会学の歩み」も私には大変参考になった。
社会はもっともらしく、捏造されている。
社会学はその社会の本性を暴きだすのだ。それが、個人の生活に実在的な意味を与える。
社会に人間性をもたらす試み、それが社会学なのだ。
・・・そのような内容を本書は語る。
社会学とは何のためにあるのか、いろいろな考え方はあるだろうが、本書の考え方も納得できるものだった。
読みやすく、おすすめできる。
社会学にはいろいろな考え方がある。「社会学の歩み」「新・社会学の歩み」も私には大変参考になった。
2021年7月7日に日本でレビュー済み
人の考えや行動がどのような環境で形成されていくかを丁寧に説明しています。社会学に教科書はないのですが、一般教養向けではなく、社会学科2年生向けでしょう。コンピュータのパンチカードをカードリーダーで読み込むという下りは、現代の若者には何の事やら分からないと思いました。91頁に「関心の焦点が狭まり専門化に安住してしまう」という部分は重要な指摘です。
2022年2月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
社会学、社会教育学、教育社会学、社会統治学、社会科...似たような社会が含まれる名称の学問など散見される中、これは社会学の方。
社会なんとかについて語られる場合はとにかく長く、端的に表現できないのが特徴か。道徳、政治などがキーワードとして単語が出てくるが、その前に人間理解からということばを思い出しそうかも。
決められた枠、柵の内側で語られる社会は何とも絶景かな。
社会なんとかについて語られる場合はとにかく長く、端的に表現できないのが特徴か。道徳、政治などがキーワードとして単語が出てくるが、その前に人間理解からということばを思い出しそうかも。
決められた枠、柵の内側で語られる社会は何とも絶景かな。
2020年6月16日に日本でレビュー済み
著者によるウィット(下ネタが多め)が聞いた文章で社会学に招待してくれる名著。そもそも社会学はどういうものか?について考えさせられるのがとても勉強になる。
2003年8月15日に日本でレビュー済み
社会学の入門書の最高峰だと思います。
こんな素晴らしい本のレビューがまだ書かれていないことが
不思議でなりません。
私は初学者なので、他の入門書と十分な比較は出来ませんが、
それでも本書がある種の人々にとっては最適であろうと言えます。
本書の第一章では社会学が受けている批判・偏見について
議論されています。
「社会学って誰もが知っている事をそれっぽく言い換えただけじゃない?」・「社会学なんか役に立たないでしょ?」などの疑問を
本書では第一章から考察している。
これは、社会学に眉唾で初めて触れる初学者にとっては非常に興味深い
導入ではないだろうか。
それ以降は人間と社会の関係性を深い思考から考察されている。
その際にも著者独特の批判精神が随所に見受けられ、
読んでいて非常にスリリングで面白い。
おそらく結論は、社会学を習熟した人にとっては
ありふれたものなのであろう。
しかし社会学に触れた事の無い人にとっては
達観した思考に感動すると思います。
こんな素晴らしい本のレビューがまだ書かれていないことが
不思議でなりません。
私は初学者なので、他の入門書と十分な比較は出来ませんが、
それでも本書がある種の人々にとっては最適であろうと言えます。
本書の第一章では社会学が受けている批判・偏見について
議論されています。
「社会学って誰もが知っている事をそれっぽく言い換えただけじゃない?」・「社会学なんか役に立たないでしょ?」などの疑問を
本書では第一章から考察している。
これは、社会学に眉唾で初めて触れる初学者にとっては非常に興味深い
導入ではないだろうか。
それ以降は人間と社会の関係性を深い思考から考察されている。
その際にも著者独特の批判精神が随所に見受けられ、
読んでいて非常にスリリングで面白い。
おそらく結論は、社会学を習熟した人にとっては
ありふれたものなのであろう。
しかし社会学に触れた事の無い人にとっては
達観した思考に感動すると思います。