正直なところ、この本に関してのレビューを書くことをこれまで躊躇してきた。
戦争による被害を受けた人達に対しての賠償責任の所在を問う時、必ず出てくる異論の一つに“戦争は国家と国家の間の問題である。また日本が過去に犯した過ちを未だに問われることは韓国に対しても中国に対してもそれぞれ『日韓基本協約』及び『日中国交回復』を以てとっくに解決済みの問題である。更に民間への賠償責任には係争の案件としてはなじまない”との発言である。
最近ドイツで出版された『シュレーダー回顧録』には“心に刻むことなしに自由はない”との言葉の下、こうした姿勢への手厳しい姿勢が示されている。また先日も日本では西松建設(第二次大戦中の西松組)が戦時中の徴用に対して賠償を自らが主体的に行うことを法廷で明らかにしている。
本書はそうした事実に先行して、ドイツの企業が戦争被害に遭わせてしまった人々への賠償を問われて、その結果“企業としての社会的責任”を果たすまでの膨大な時間を費やしての資料調査と経緯の記録である。
当初はドイツの企業も日本同様にその賠償責任を拒否してきた。しかし調査の過程でその姿勢は徐々に変わっていく。“今、こうして我々の会社があるのは過去の上に成り立っているからこそではないか。それに対して私達はどう応えるべきか、私達の責任をどうすべきか、もう一度問い直すべき必要性は十分にある”。こうした経営者達の認識が明らかに変化していく過程には“現在そして将来はどうあるべきか”の意味を問う姿勢が具体的に綴られている。
戦争での“被害者と加害者の関係”を考える時、私たちはどうしても“国家と個人”への視点にとらわれがちではある。がしかし冷静に考えてみると、被害者に対しての加害者は国家であると同時にその戦争行為を支えていた民間にもあるとの視点にも納得できる点は多々ありその意味でこの本のメッセージには傾聴に値する部分が多い。当事者の目の前にいた直接の対峙者は“国家”でないことが殆どであり、それは須く国家を後ろ盾とする民間の組織だった。
簡潔なメッセージの裏にあるもの、それは日本を含めた東洋の国々に古来から脈々と伝わる“道義”“信義”を大切にすることとなんら変わりはない。
尚、日本国内でも未だに“東京大空襲”で被災された人々への賠償責任を法廷は明らかにしていない。間もなく被災された方々の多くが鬼籍に入られる年代となり、また核の惨禍を被った方々に対する保証のあり方も十分であるとは言い切れない。
こうした過去に目を閉ざしたままで未来を築いていくことが困難であることは自明の理でもある。何よりも大切にされねばならないのは“人”である。
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奴隷以下: ドイツ企業の戦後責任 単行本 – 1993/10/1
- 本の長さ485ページ
- 言語日本語
- 出版社凱風社
- 発売日1993/10/1
- ISBN-104773617063
- ISBN-13978-4773617061
商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
ナチス体制下、死に等しい重労働を強制されたユダヤ人たちがいる。この「絶滅に至る重労働」の利益を享受したドイツ企業は、戦後どのように犠牲者と向かいあったのか。四半世紀にわたるドイツ企業の戦後責任をめぐっての記録。
登録情報
- 出版社 : 凱風社 (1993/10/1)
- 発売日 : 1993/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 485ページ
- ISBN-10 : 4773617063
- ISBN-13 : 978-4773617061
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,493,471位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 65位ナチス関連
- - 72位強制連行・強制労働
- - 814位ヨーロッパの地理・地域研究
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