悪魔の歴史を西欧諸国の社会史や宗教史と共に通史として論じた大作。
本書で特筆に値するのは下記の3点である。
1. 多くの研究が魔女の歴史に注がれる中、本書ではあくまでも「悪魔」を主役とする事
2. 現代のエンターテイメント(文学や映画等)に於ける悪魔に着目している事
3. 「宗教とは切り離された悪魔=人間の”内なる悪魔”」を取り上げている事
本書は12~20世紀の悪魔像を取り上げているので、悪魔を通史として学ぶにはほぼ全域を網羅しており、西洋文化を学ぶ為には必須の一冊と言っても過言ではなかろう。
本書は「サタンの登場」「サバトの夜」「肉体の悪魔」「サタンの文学と悲劇の文化」「黄昏の悪魔―古典主義からロマン派へ」「内なるデーモン」「快楽あるいは恐怖-20世紀末のデーモン」の7章構成で、最終章「デーモンとのダンス」にて結論している。
そもそも、悪魔と言う存在(概念)が如何にして生まれたのか、如何にしてその重要度を増して言ったのか…こうした所謂「悪魔に関する基礎知識」をヨーロッパの歴史を通して丁寧に解説している所は非常に解り易く、結果として、要はキリスト教信仰を高める為には悪魔が不可欠な存在であった事が語られるが、思えば、我が国で広まった仏教に於いて常に地獄を意識したのも「地獄の恐ろしさを見せる事に依って信仰を煽った」のであり、これが「悪魔」にも当て嵌まるのではなかろうか…?
尤も、キリスト教の長い歴史に於いては「脱・悪魔」に依る教えも無いではなかったようなので、非常に複雑な経緯を辿った事は間違いないが、本書では、カソリックとプロテスタントの立場、そして各宗教者の考えなども緻密に追跡しているおり、こうした流れの中で微妙に変化する悪魔の立ち位置についても理解する事が出来、非常に勉強になった。
因みに、悪魔の歴史を緻密に解説・分析している所は非常に勉強になるだが、意外な面白さを発見したのは最終章かもしれない…ここでは主に映画を取り上げ、吸血鬼やゾンビ映画等も並列しながら最終的には西欧の文化論にまで発展している。
キリスト教国家と言えども、アメリカの悪魔に対する態度とヨーロッパのそれとは全く違う…そして、ヨーロッパに於いてもまた、フランスを中心とするラテン系国家と、ドイツや北欧などのゲルマン国家とはこれまた違う。
各国が…或いは各人種が、それぞれの歴史や宗教観に支えられた価値観の元に悪魔に向き合い、それぞれの態度を示す…そして、それが現代文化にも反映され、それぞれの価値観に合わせて変容した事を学ぶに付け、西欧諸国を知る上で大きな収穫になったように思う。
私は魔女に関する著作は何編か読んだ事があったが、魔女と悪魔の歴史は全く異なる…即ち、悪魔の方が西洋宗教史の中ではより根源的であるにも拘らず、実際には魔女程には民間に実害を与えてはいない(悪魔憑きはあったものの)事にも気付かされたのだ。
即ち、悪魔はキリスト教を支える為の「必要悪」として、日常生活とは少し距離を置いた所に常に存在し続けるとも言える…そして、そんな概念的な存在であるからこそ、現代社会に於いては新たな活躍の場を与えられ、また、パロデイとしてのユーモアにも溢れ、多くの人々の心に浸透していく事が可能だったのだとも思うし、その一方で、人智の許容範囲を超えない事象の責任を「悪魔」に押し付ける事も可能になり得たのだと思う。
そんな悪魔の未知数の可能性を考えると、やはり恐ろしい存在である。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥3,500以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
悪魔の歴史12~20世紀: 西欧文明に見る闇の力学 単行本 – 2003/5/1
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥5,500","priceAmount":5500.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"5,500","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"VCCMhlabFhaBlFNYkucJ%2BFp6SyQOxZbqz00egYh1c7H04RRHPpeiPKNJTf4Po6UcANnukeReEDsaNr%2FFUVX40glqhuacUcswnfU3Fc8qMTvz995uT8hzI%2FG5otjtRRjB","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}]}
購入オプションとあわせ買い
- 本の長さ549ページ
- 言語日本語
- 出版社大修館書店
- 発売日2003/5/1
- ISBN-104469250716
- ISBN-13978-4469250718
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
悪魔の誕生した中世から現代のホラー映画まで、一千年の間「悪魔」という強迫観念にとりつかれてきた西欧人の心の問題を文化・社会とのダイナミズムの中で明らかにする。
登録情報
- 出版社 : 大修館書店 (2003/5/1)
- 発売日 : 2003/5/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 549ページ
- ISBN-10 : 4469250716
- ISBN-13 : 978-4469250718
- Amazon 売れ筋ランキング: - 300,341位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 175位神学 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.6つ
5つのうち4.6つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
4グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2022年9月18日に日本でレビュー済み
西欧の歴史、宗教、政治、文学、生活史、さらには映画や漫画等々に知識があり、それらをバックボーンにして悪魔について知りたい人にとってはベストな書だと思います。
章立てと簡単に内容や感想をご紹介します。
「序章 悪魔との一千年」
この本の全体の導入ですが、この中で「1999年、ローマ教会は、悪魔祓いの新しい儀式を提示し、この任務にあたる聖職者の数を増加させ(フランスでは15人から120人に増えている)・・・」という一文は驚きでした。また「新訳聖書で「悪魔」とは「分裂をもたらす者」を意味する」というのは現代の様々な状況に照らして考えると興味深いです。
「第1章 サタンの登場(十二‐十五世紀)」
12世紀から15世紀にかけて、悪魔が登場してくる様子について。
「第2章 サバトの夜」
魔女について。この内容については別の魔女に関する専門書の方がまとまっていると思う。
「第3章 肉体の悪魔」
男性性と女性性と悪魔的なものあるいは怪物的なものについて。性差別の極みです。またご自分の匂いにはくれぐれも気を付けた方が宜しいようです(笑)
「第4章 サタンの文学と悲劇の文化(一五五〇年‐一六五〇年)」
16世紀から17世紀にかけて広がりを見せた悪魔に関する文学作品や「カナール」の三面記事などを通して、ヨーロッパの暗いアイデンティティ(=悲劇的文化)が確立されていった状況について。
「第5章 黄昏の悪魔―古典主義からロマン派へ」
ヨーロッパにおける悪魔が衰退していった状況とその背景について。
「第6章 内なるデーモン(十九‐二十世紀)」
いわゆる本物?の悪魔はその力は失っていったが、その悪魔的なものが人間の精神に内在化していった状況が特に文学に関して解説されている。
「第7章 快楽あるいは恐怖―二十世紀末のデーモン」
映画に描かれた悪魔を主に解説している。
欧米において悪魔のイメージはカトリック諸国に比べプロテスタント、中でもルター派が重要な位置を占めていた国々においてより強く映画作品に影響を与え、その数も多いとのこと。
メリエスを初めとするフランス映画、ドイツ表現主義、ベルイマン、ドライヤー、ムルナウ、クルーゾー、アメリカのギャング映画や吸血鬼などの怪物もの、さらには一見、悪魔とは無関係に思えるヒッチコックの作品や刑事もの等々について多数紹介されている。
『エクソシスト』や『ローズマリーの赤ちゃん』、『オーメン』にも触れられてはいるが、怪物ものや人間の心の悪を扱った作品の方が多くのページ数を占め、この章においても解説の幅が広すぎてまとまりがつかない。
なおベンジャミン・クリステンセンの『魔女狩りの時代』(1921年)は現在アマゾンでもDVDとして入手できます。題名は『HAXAN 魔女』です。
またヴィクトール・シューストレームの『幽霊の荷馬車』(1921年)はアマゾン・プライムビデオで『霊魂の不滅』の題名で検索すると見ることができます。ただし字幕が酷いようですのでご注意を。また英語字幕のDVDはアマゾンで購入可能です。
これらの件に関してはアマゾンに感謝です。
全体としてあまりにも解説の幅が広く細部にまで渡ることは「序章」の中でイクスキューズしていますが、やはりその点が大きなデメリットにもなっています。若干話の流れが入り乱れるのも非常に気になります。
さらに扉絵が数枚掲載されていますが本文中には皆無であり、また素人の自分にとっては解説される時代の地図が一部の章においては欲しいところでした。
ただし訳注は多くかつ丁寧で、理解していくうえで非常に助けになりました。文章が読みにくいのも訳のせいではなく多分に原文に問題があるのかもしれません。
章立てと簡単に内容や感想をご紹介します。
「序章 悪魔との一千年」
この本の全体の導入ですが、この中で「1999年、ローマ教会は、悪魔祓いの新しい儀式を提示し、この任務にあたる聖職者の数を増加させ(フランスでは15人から120人に増えている)・・・」という一文は驚きでした。また「新訳聖書で「悪魔」とは「分裂をもたらす者」を意味する」というのは現代の様々な状況に照らして考えると興味深いです。
「第1章 サタンの登場(十二‐十五世紀)」
12世紀から15世紀にかけて、悪魔が登場してくる様子について。
「第2章 サバトの夜」
魔女について。この内容については別の魔女に関する専門書の方がまとまっていると思う。
「第3章 肉体の悪魔」
男性性と女性性と悪魔的なものあるいは怪物的なものについて。性差別の極みです。またご自分の匂いにはくれぐれも気を付けた方が宜しいようです(笑)
「第4章 サタンの文学と悲劇の文化(一五五〇年‐一六五〇年)」
16世紀から17世紀にかけて広がりを見せた悪魔に関する文学作品や「カナール」の三面記事などを通して、ヨーロッパの暗いアイデンティティ(=悲劇的文化)が確立されていった状況について。
「第5章 黄昏の悪魔―古典主義からロマン派へ」
ヨーロッパにおける悪魔が衰退していった状況とその背景について。
「第6章 内なるデーモン(十九‐二十世紀)」
いわゆる本物?の悪魔はその力は失っていったが、その悪魔的なものが人間の精神に内在化していった状況が特に文学に関して解説されている。
「第7章 快楽あるいは恐怖―二十世紀末のデーモン」
映画に描かれた悪魔を主に解説している。
欧米において悪魔のイメージはカトリック諸国に比べプロテスタント、中でもルター派が重要な位置を占めていた国々においてより強く映画作品に影響を与え、その数も多いとのこと。
メリエスを初めとするフランス映画、ドイツ表現主義、ベルイマン、ドライヤー、ムルナウ、クルーゾー、アメリカのギャング映画や吸血鬼などの怪物もの、さらには一見、悪魔とは無関係に思えるヒッチコックの作品や刑事もの等々について多数紹介されている。
『エクソシスト』や『ローズマリーの赤ちゃん』、『オーメン』にも触れられてはいるが、怪物ものや人間の心の悪を扱った作品の方が多くのページ数を占め、この章においても解説の幅が広すぎてまとまりがつかない。
なおベンジャミン・クリステンセンの『魔女狩りの時代』(1921年)は現在アマゾンでもDVDとして入手できます。題名は『HAXAN 魔女』です。
またヴィクトール・シューストレームの『幽霊の荷馬車』(1921年)はアマゾン・プライムビデオで『霊魂の不滅』の題名で検索すると見ることができます。ただし字幕が酷いようですのでご注意を。また英語字幕のDVDはアマゾンで購入可能です。
これらの件に関してはアマゾンに感謝です。
全体としてあまりにも解説の幅が広く細部にまで渡ることは「序章」の中でイクスキューズしていますが、やはりその点が大きなデメリットにもなっています。若干話の流れが入り乱れるのも非常に気になります。
さらに扉絵が数枚掲載されていますが本文中には皆無であり、また素人の自分にとっては解説される時代の地図が一部の章においては欲しいところでした。
ただし訳注は多くかつ丁寧で、理解していくうえで非常に助けになりました。文章が読みにくいのも訳のせいではなく多分に原文に問題があるのかもしれません。