板垣退助の新書版伝記。研究者による板垣退助の伝記としては46年ぶりのようである。
重要史料は『自由党史』(1910年)で、これを批判的に検討していく。
板垣退助の人生は官軍の指揮官、明治政府の参議、自由民権運動指導者、政党政治家と多様に変化していく上に、自由民権運動も政党政治も動きが激しく、伝記に書き込む歴史事実が数多い。そのため、本書も事実がぎっしり詰まっているように見え、ちょっと読みにくい。
しかし、序文で「板垣の謎」と「板垣への批判」について書かれており、この点に気をつけて本書を読んでいくと、この「板垣の謎」と「板垣への批判」について比較的詳しく書かれていることがわかり、メリハリがついて読みやすくなる。
一、構成
第一章戊辰戦争の「軍事英雄」
第二章新政府の参議から民権運動へ
第三章自由民権運動の指導者
第四章帝国議会下の政党政治家
第五章政治への尽きぬ熱意
終章英雄の実像
二、内容と私的感想
〇板垣の謎
①明治六年政変で下野後、自由民権運動の指導者への転身のプロセスが明らかでない。
☆この点、本書では、板垣は明治7年愛国新党を結成し、「民撰議院設立建白書」を提出するが、政府に無視される。明治8年には、板垣は政府に取り込まれて参議に復帰し、愛国新党は消滅。板垣は政権奪取の計画も立てるが権力闘争に敗れ、再び下野。明治10年西南戦争が起こり、板垣は挙兵計画、銃器購入も検討するが、西郷の敗色が明らかになると、自由民権運動の全国展開を決断する。つまり、西郷に味方して政府打倒か、自由民権運動かを、充分に情勢を見極めて、正しい決断をしたことになる。
②「板垣死すとも自由は死せず」は実際に発言されたのか。
☆様々な新聞記事等を検討した上で、事件以前から類似の発言を繰り返しており、とっさの事態でも、その言葉が出たとする。
③貴族院議院にも、衆議院議員にもならなかった板垣がどうやって政党の指揮をとったのか。
☆これは161頁から163頁に詳しく書かれているが、第一は代議員総会に出席し、会長議長を務めたこと、第二に政務調査部を設置し、これを六部に分け政策立案させたことである。第三に自分の代理としての院内総理を設置したことである。
〇板垣への批判
①明治15年、自由党総理なのに、政府から金をもらって外遊に行った。
☆これは詳しく検討されていて面白い。結局、政府が三井銀行に出させた第一ルートと、支持者の土倉が出した第二ルートがあり、板垣は第一ルートについては知らなかった、だから板垣は嘘は言っていないという説を支持。
②第一回帝国議会における「土佐派の裏切り」で、衆議院の決定前に政府の同意を求める緊急動議が成立した。
☆第一回議会を無事に終了させたいという板垣の意向があった。
③ほかに、板垣が爵位辞退を繰り返した末に、最終的に伯爵になってしまった問題についても詳しく書いている。面白い。
私的結論
〇「自由民権運動」とは何であったのか、という重要テーマについては、ここではあまり検討されていない。ただ、山川教科書の「フランス流の急進的な自由主義を唱える自由党」を引用する一方、板垣については「板垣の主張した政治体制はイギリスの立憲君主制に近かった」と述べ「世の中に尊皇家は多いが、自由党のような尊皇家はおらず」という板垣の言葉を引用している。
〇板垣が「自由」をどう考えていたか興味深いが、92頁では「民権自由を拡大して、人民に政治思想を持たせること。それが国家の運命を憂慮する愛国心の喚起につながる」となっている。となると、明治政府の別動隊のような感もある。
〇一般向け歴史新書としては、ちょっと読みにくい。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥3,500以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
¥946¥946 税込
発送元: Amazon.co.jp 販売者: Amazon.co.jp
¥946¥946 税込
発送元: Amazon.co.jp
販売者: Amazon.co.jp
¥263¥263 税込
配送料 ¥257 6月12日-14日にお届け
発送元: ガリガリくん【朝9時までのご注文は当日発送。ゆうメールの土日祝日の配達はごさいません。】 販売者: ガリガリくん【朝9時までのご注文は当日発送。ゆうメールの土日祝日の配達はごさいません。】
¥263¥263 税込
配送料 ¥257 6月12日-14日にお届け
発送元: ガリガリくん【朝9時までのご注文は当日発送。ゆうメールの土日祝日の配達はごさいません。】
販売者: ガリガリくん【朝9時までのご注文は当日発送。ゆうメールの土日祝日の配達はごさいません。】
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
板垣退助-自由民権指導者の実像 (中公新書 2618) 新書 – 2020/11/20
中元 崇智
(著)
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥946","priceAmount":946.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"946","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"lpL2WQj0VN5P1E%2FsRRK0ZodKYtrd8JYHuhsr%2F20fv1HUgXqrcHb7u5Hgvz5kpHxInN5ZeuHwOi3eevI3tDTy%2FBK4LhveJgnNQFtVdBeoC24w4sWB1IYeQu8ud%2BSAw73mQdg8OCEUBMI%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥263","priceAmount":263.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"263","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"lpL2WQj0VN5P1E%2FsRRK0ZodKYtrd8JYH8sUl%2BJMe8%2F%2FC6I5hMqW9P%2BeoaImM%2FTjaxRooJeEA8nZSOghDEJeypS2ODXI6kaPMOD27gctmT2WdnKKyACVvPC97YX5%2FaUust1Viyj7VU4Dx7IW8Et%2B2hLILh3WPeytWs0QmmW%2BFG8sz67AO6As7rA%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
「板垣死すとも自由は死せず」の言で名高い板垣退助(1837~1919)。戊辰戦争で官軍の指揮官として名声を得た彼は、維新後、西郷隆盛らと一時政権に参画するも下野。民選議会設立を求め自由民権運動に邁進し、日本初の全国政党・自由党を結成する。議会開設後は第一党のトップとして藩閥政府と対峙。のちには大隈重信と初の政党内閣を組織した。多くの大衆から愛され、近代日本に大きな足跡を残した志士の真実。
- 本の長さ260ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2020/11/20
- 寸法11.1 x 1.1 x 17.3 cm
- ISBN-104121026187
- ISBN-13978-4121026187
よく一緒に購入されている商品
対象商品: 板垣退助-自由民権指導者の実像 (中公新書 2618)
¥946¥946
最短で6月10日 月曜日のお届け予定です
残り8点(入荷予定あり)
¥1,210¥1,210
最短で6月10日 月曜日のお届け予定です
残り5点(入荷予定あり)
¥1,100¥1,100
最短で6月10日 月曜日のお届け予定です
残り3点(入荷予定あり)
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
著者について
中元崇智(なかもと・たかとし)
1978(昭和53)年兵庫県生まれ.2000年立命館大学文学部日本史学科卒.07年名古屋大学文学研究科博士後期課程修了(歴史学博士).高千穂大学院大学商学部准教授などを経て,中京大学文学部歴史文化学科教授.専攻・日本近代史 著書 『明治期の立憲政治と政党―自由党系の国家構想と党史編纂』(吉川弘文館,2018年) 共著『自由民権<激化>の時代』(日本経済評論社,2014年)『近代日本の歴史意識』(吉川弘文館, 2018年)『明治史講義 テーマ篇』(ちくま新書,2018年)他多数
1978(昭和53)年兵庫県生まれ.2000年立命館大学文学部日本史学科卒.07年名古屋大学文学研究科博士後期課程修了(歴史学博士).高千穂大学院大学商学部准教授などを経て,中京大学文学部歴史文化学科教授.専攻・日本近代史 著書 『明治期の立憲政治と政党―自由党系の国家構想と党史編纂』(吉川弘文館,2018年) 共著『自由民権<激化>の時代』(日本経済評論社,2014年)『近代日本の歴史意識』(吉川弘文館, 2018年)『明治史講義 テーマ篇』(ちくま新書,2018年)他多数
登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2020/11/20)
- 発売日 : 2020/11/20
- 言語 : 日本語
- 新書 : 260ページ
- ISBN-10 : 4121026187
- ISBN-13 : 978-4121026187
- 寸法 : 11.1 x 1.1 x 17.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 343,759位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,571位中公新書
- - 9,397位日本史 (本)
- - 64,398位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中4.3つ
5つのうち4.3つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
14グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2020年12月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2020年11月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
冒頭にあるように研究者による評伝としては半世紀ぶりというのは少々意外だったが、それは国政の上で腕を振るう機会が乏しかったせいかもしれない。
明治新政権で参議になった期間も、隈板内閣もそう長くはなく、自由民権運動も一枚岩にはなかなかなれなかった。
運動最高潮の中での外遊もそのひとつであろう。
そうした経過の概略が本書では述べられている感を受ける。
くしくも同じように下野した大隈重信は外遊を試みた気配はあるがついにその機会を得なかった一方で、複数回総理の椅子に座ったほか、早稲田大学などにその名を刻んでいる。
明治新政権で参議になった期間も、隈板内閣もそう長くはなく、自由民権運動も一枚岩にはなかなかなれなかった。
運動最高潮の中での外遊もそのひとつであろう。
そうした経過の概略が本書では述べられている感を受ける。
くしくも同じように下野した大隈重信は外遊を試みた気配はあるがついにその機会を得なかった一方で、複数回総理の椅子に座ったほか、早稲田大学などにその名を刻んでいる。
2021年3月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
明治維新の英雄から自由民権運動への転身、その一徹さなど、名前は知っていてもよく分からなかった人物像がだいぶ見えてきました。魅力的な人物です。
2021年3月13日に日本でレビュー済み
本書は、おおよそ5つの時期に分けて、板垣とその周辺の人々、政党の動きを詳細に記述する。①戊辰戦争の軍事的指導者として成功し、②明治政府に参議として参加。政変に敗れて下野した後は、武力による明治政府への抵抗ではなく、③自由民権運動の指導者として全国を遊説し、さらには④黎明期の帝国議会の最大政党の領袖として議会制度に魂を入れる。⑤政治家として引退後も、社会政策を唱導し、大相撲にも貢献する。
2度の政変に敗れ、立ち上げた政党も何度か解党の憂き目にあい、自身も外遊、爵位の授与などに端を発して不本意な形で批判を受け、何度か隠居同然の生活も経験しながら、自由民権運動、政党政治の確立に生涯をかけた経緯を本書の詳細な記述で追っていくと、そのエネルギーに感服する。
では、「板垣死すとも自由は死せず」という言葉を、刺傷事件に遭ったその場で本当に発することができたのだろうか?本書はこの言葉についても、当時の新聞や報告書を丹念に調べて検証する。その結論は、本書をご覧いただくとして、評者としては、やはり、それに近い言葉は咄嗟に発したのだろう、そう思わせるだけの情熱と覚悟を持った生涯だと感じられた。
しかし、その情熱と覚悟がどこから出てきたのか、あるいは、それだけの情熱を傾けて、どのような議会制度の姿を目指していたのかが、本書の中ではまとまった形では見えてこなかった。もちろん、一生の中で5つの様々な立場でその時々の国政の重要課題に直面せざるを得なかった人間が、常に一貫した政治姿勢や国家観を持つわけではないだろう。しかしながら、本書の丹念な事実関係の記述の中で、板垣の考え方の部分が見えにくかったのは否めない。この点で、星4つとした。
2度の政変に敗れ、立ち上げた政党も何度か解党の憂き目にあい、自身も外遊、爵位の授与などに端を発して不本意な形で批判を受け、何度か隠居同然の生活も経験しながら、自由民権運動、政党政治の確立に生涯をかけた経緯を本書の詳細な記述で追っていくと、そのエネルギーに感服する。
では、「板垣死すとも自由は死せず」という言葉を、刺傷事件に遭ったその場で本当に発することができたのだろうか?本書はこの言葉についても、当時の新聞や報告書を丹念に調べて検証する。その結論は、本書をご覧いただくとして、評者としては、やはり、それに近い言葉は咄嗟に発したのだろう、そう思わせるだけの情熱と覚悟を持った生涯だと感じられた。
しかし、その情熱と覚悟がどこから出てきたのか、あるいは、それだけの情熱を傾けて、どのような議会制度の姿を目指していたのかが、本書の中ではまとまった形では見えてこなかった。もちろん、一生の中で5つの様々な立場でその時々の国政の重要課題に直面せざるを得なかった人間が、常に一貫した政治姿勢や国家観を持つわけではないだろう。しかしながら、本書の丹念な事実関係の記述の中で、板垣の考え方の部分が見えにくかったのは否めない。この点で、星4つとした。