著者は、「人間(広く生物と捉えても良い)とは何者であって、どこから来て、これからどうやって生きていけば良いのか」という疑問を、遺伝子工学理論を踏まえながらも、人間どうしの係わり合いや人間と社会の関係を重視して探求する「生命誌」というジャンルを切り開いた、日本における女性科学者の第一人者。
本書の前半は新聞に掲載されたエッセイを纏めたもの。読者層を意識してか平易な文章で、主に家族や恩師のことを対象に書かれている。これまで中村さんと言えば分子生物学者としての顔しか知らなかったので、母として、嫁として、子供や姑に接する姿に微笑ましさを感じた。やはり、ここでも人間関係の重要性が強調され、遺伝子決定論には否定的な態度を取っている(誤解を招くと困るので書いておくが、著者は遺伝子工学を否定しているのではなく、逆にDNAの総合体であるゲノムを「生命誌」の中心に据えている)。女性が学界の中で生きていく難しさについても触れている。
後半は、物理学者の竹内均氏との対談を交え、専門的な雑誌に掲載したエッセイを纏めたもの。当然、話は専門的になるのだが、内容を吟味すると前半の家族の触れ合いのところ等で述べた内容を、遺伝子工学的に言い換えたものである事が分かる。また、本書中の作品が書かれたのは1980年頃なのだが、既に遺伝子組換えの問題にも触れている。著者の考え方は、遺伝子組換えは例えばコメの品種改良と同様なものでむやみに恐れる必要はないが、それが人間操作等危険な方向に行くことには断固反対というものである。この考え方が、遺伝子工学だけに頼らず人間(生物)の視点で生き方を整理する後の「生命誌」に繋がるのである。
本書は、女性科学者の第一人者である著者の家庭での姿を垣間見せてくれる興味深い本であると共に、著者の生き方がそのまま著者の研究に反映されている事を教えてくれる良書である。
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生命科学者ノート (岩波現代文庫 社会 9) 文庫 – 2000/3/16
中村 桂子
(著)
DNA研究は面白いが科学の進め方に疑問がある.専門家が先端を追究し,社会の側が倫理を盾に批判するという関係は作りたくない.生命をゲノムという視点から,社会や歴史の関係のなかでとらえる「生命誌」提唱者の,原点とも言うべきエッセイ集.家族とのふれあい,恩師との出会いをまじえ,人と社会と科学の接点を綴る.
- 本の長さ239ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2000/3/16
- ISBN-104006030096
- ISBN-13978-4006030094
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2000/3/16)
- 発売日 : 2000/3/16
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 239ページ
- ISBN-10 : 4006030096
- ISBN-13 : 978-4006030094
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,315,441位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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