この本も、大学入り立てのころ、金沢の古本屋を回って手に入れたものの、ずっと読まずにいたものでした。何とはなしに、今読む機会を逸するともう決して読むことはなかろうと思い、読みました。
この戯曲は1892年に発表、1844年に実際に起こった織工たちの暴動がもとになっています。安い賃金で過酷に使役され、ほとんど未来に希望が持てないまでに追い詰められた織工たちの状況が活写されています。
そうした題材は、古めかしいように見えて意外にそうではないようです。いかなる時代でも雇用関係があれば必ず雇用・被雇用の対立は生まれますし、さらに次第に工業化が進むなかで人間の仕事が奪われることも、技術の進歩が続く限りは常に起こりうることでもあります。
この戯曲自体は、何ら明確な問題解決の方法を示してはいません。雇用者も被雇用者も同様に醜く浅ましい人間感情をあらわにしていて、よくある暴動の首謀者を英雄として扱うような所が少しもありません。そうしたカタルシスの少なさが、筆者の冷徹なまなざしを印象づけています。この作中で一人私が印象に残ったのはヒルゼ爺さんで、暴動の浮かれ騒ぎに加担しようとせず、神が与えてくれるだろう来世を信頼し、自らの務めに忠実であろうとします。ただ、その爺さんは最後に流れ弾に当たって命を落として、戯曲は幕となるのですが……。
21世紀に入ってもいろいろな出来事があるなかで、私たちは個人としてどう振る舞うことが必要か……当然明確な答えなどありませんが、今さかんに行われている示威的団体行動が社会変革の有効な方法だとは、とても言えなくなっているように思います。敵対関係を作ってしまうと、結局は物理的に力が強い者が勝つというだけになります。(香港のことが気がかりです。あそこまで民衆が顔を出して行動してしまうと、権力側にそれだけつけ込まれやすくなります。ネットなどを巧みに操作しながら「顔の見えない不気味な圧力」をかける方が、一見卑怯に見えても、それこそ頑迷で卑怯な相手に対する有効な手段であるように思います。)
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織工 (岩波文庫 赤 428-1) 文庫 – 1954/5/5
- 本の長さ131ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1954/5/5
- ISBN-104003242815
- ISBN-13978-4003242810
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1954/5/5)
- 発売日 : 1954/5/5
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 131ページ
- ISBN-10 : 4003242815
- ISBN-13 : 978-4003242810
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