内容説明
7世紀に勃興したイスラーム文明・アラブ国家にビザンツ帝国はいかに対峙したのか。これまで十分に説明されることのなかった中世の地中海世界の新たな歴史像を本書は提示する。7世紀中盤のコンスタンス2世時代を中心に、ビザンツ帝国や地中海世界の変化に対して、政治的・軍事的な状況だけでなく、イスラームをふくむ総合的な観点からの分析を試みる。
目次
序章 研究史と問題設定
第1章 神の怒りを引き起こした皇帝
第2章 641年=「四皇帝の年」の混乱
第3章 維持される強硬路線
第4章 最初のコンスタンティノープル攻撃(654年)
第5章 コンスタンス2世のシチリア進出
第6章 「神が振り下ろした一撃」
第7章 守勢から攻勢へ
第8章 コンスタンス2世の暗殺をめぐって
第9章 ローマ帝国の「後継者」になること
終章 7世紀中盤とはどのような時代だったのか
補論
著者等紹介
小林功[コバヤシイサオ]
1969年生まれ。1997年京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学、京都大学)。現在、立命館大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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MUNEKAZ
10
7世紀中盤、コンスタンス2世の時代を中心に、イスラム世界の侵攻に直面したビザンツ帝国の対応を論じた一冊。頻発する内訌やイスラムの脅威を前に動揺する皇帝権力が、二度のコンスタンティノープル防衛に成功することで、逆に「神の恩寵を受けし皇帝」として強化されていく様子は興味深いところ。またイスラムという異質の存在と向き合うことで、従来の「ローマ帝国」的な要素が抜け去り、新たにビザンツ帝国として生まれ変わるというダイナミズム、そしてそれがビザンツと向かい合ったイスラム側でも起きていることを指摘しているのも面白い。2020/01/25
じょあん
2
7世紀のアラブの勃興に対するビザンツの動きとそれによるアラブの変化を、コンスタンス2世の時代を軸に論じる。当初ビザンツはアラブにどう対処したか、その対処はどう変化したのか。その背景にどのような状況や対アラブ認識があったのか。認識の変化やコンスタンティノープル包囲を潜り抜けビザンツはどのような姿になったのか。またアラブがササン朝を併呑しながらビザンツ併呑に失敗したことでどのような影響があったのか――近年の研究の成果により活用が進む印章・文献、また先行研究を駆使し当時の状況に迫る。ビザンツ愛好者必読の一冊。2020/02/04