内容説明
中年の独身画商梨田は、地下鉄の長いエスカレーターを昇っていくとき、降りてくる側に、知り合ったばかりの若い美貌の未亡人を認めて、咄嗟に逆乗りをし、彼女を伴って“台湾民主共和国”準備政府の大統領就任パーティに出席するが…。水際立った発端、スリリングな展開、最上のユーモアとエロティシズム。練達の著者が趣向の限りを尽して国家とは何かを問いかける注目の純文学巨編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
132
丸谷 才一という作家は、国語の問題に出題されて仮名使いに拘る人だな、と思った記憶がある。本書は評論ではなく小説だが、筋を楽しむより前に文体に気をつけて読んだ、という奇妙な記憶がある。軽妙で面白いのだが、逆に国家論が多く,落ち着かない読書だった。
サンタマリア
39
知的好奇心を刺激する小説。会話形式で展開する国家論を読み下すだけで楽しかった。物語の動きとか無くても面白いんじゃないかとさえ思ったが、それだと彼らの今後を考えるきっかけがなくなるから駄目か。国歌について辛辣な話があったが、この程度の歌詞で満足する程度の国民には、それに相応しい政府ができあがるということだろうか。また、『権力は長くつづけばきつと腐敗するとよく言はれるけれど、しかし持続的でない権力は整った社会をもたらすことができない。』という一文には唸らされた。腐敗は良くないけど。などと嫌なことばかり考えた。2023/05/07
KAZOO
25
久方ぶりに丸谷さんの小説を読みかえしています。旧仮名遣いで書かれていて若い人には題名からしてもとっつきにくい感じがすると思います。しかしながら、文藝関連のことばかりであまり世間的な政治などは興味がないと感じるのですがよくよく読むと日本のいく先を見通しているのではないかという気がしてきます。もう少し長生きをして今後の日本のゆく道を暗示しているような小説をもっと書いてもらいたいと思いました。2014/07/25
James Hayashi
23
30年以上前の作品である。台湾という国家と個人の交わりで語られていくが、台湾そのものの歴史でなくフィクションである。ちと小難しい内容に中年男女の恋愛など艶をもり、ストーリーに息づかいを感じさせる。国家を考えさせられるが、純文学に置かれる巨編。小国ながら政治も考えさせられる。2018/09/01
蛇の婿
20
私が学生の頃、この本がベストセラーになって、題名でいきなり何じゃこりゃ、と思ったのを覚えています。…裏声で歌うの逆に難しいです君が代…そして、文章読んでまた何じゃこりゃ、でした。旧仮名使いを使用した(厳密には少し違うようですが)文章がいきなり目に飛び込んできますwいやぁ…当時脱落したんですよねこの本ww今あらためて読んでみると、旧仮名遣いも慣れればまったくなんてことはないし、それに、書かれている内容が今現在の政治情勢を別な意味で想起させて実に面白く興味深い…大変素晴らしい本でした。2013/06/04