新潮文庫<br> 花終る闇

新潮文庫
花終る闇

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ 文庫判/ページ数 210p/高さ 16cm
  • 商品コード 9784101128245
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0193

内容説明

“漂えど沈まず”。小説のタイトルは決まった。しかし、男はそこから一歩も進めなくなった。焦燥と倦怠の中、男は酒と情事と幻想に耽る―。熱帯の甘い泥に蠢く古代の虫。機関銃の猛射の下、惚けた顔で佇むベトナム兵。みなし児のようにヨーロッパをさまよう女の疲れた首筋。記憶を食いつぶした男は崩壊の手前で辛うじて踏み止まるのだが…。『輝ける闇』『夏の闇』に続く未完の最終篇。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ミスターテリ―(飛雲)

42
【再読】毎年12月になると開高先生に想いを馳せる。これほどなにもない日常をこれほど饒舌に表現した作家がいただろうか。ある意味、闇三部作の最終作として、それも偶然未完で終わったという意味で、象徴的な作品であった。ー「漂えど沈まず。新しい作品の題をそうときめ、原稿用紙に書きつけたけれど、それきりである。一歩も先へ出られない。かれこれ一年にもなるのだが、一語も書きだせないでいる。・・書きたいことが何もないから書けないのではない。たくさんあるのに書けないのである。それは凝視するとこっそり遠ざかっていき、→ 2020/12/08

さっと

8
小説家の死後に未完のまま発表された闇三部作の「花終る闇」。作中でも私は書けない書けないと言い続けている。マーマーフーフーやトトチャブやジャングルの戦闘や橋の下をたくさんの水が流れたことや中国語はメニュを読めるぐらいであることや貧しい東北の小学校の校庭で東京の小学校から送られてきた塩ザケを食べずにひとりたたずむ少年の微笑をとらえたフィルムを見て映画館で号泣したことなど、自伝的小説やらエッセイやら何かしらで読んだモチーフが繰り返されるけれど先へは進めない。漂えど沈まぬ、か。2019/04/20

Yoichi Taguchi

3
輝ける闇、夏の闇につづく第三部として本書・花終わる闇という題名を付ける前に、闇三部作の総題として『漂えど沈まず』という題名が先にあった気がする。残念ながら本作は未完であるが、”漂えど沈まず”と”花終わる”という一見矛盾したキーワードを本書でどう完結するつもりだったのか。それにしても、これだけの言葉を操る天才作家は他に居ない気がする。早逝された開高氏に改めて合掌。2022/02/27

メルコ

3
海外旅行に前後して読んでいた。著者とダブる主人公の女性遍歴、戦争時のベトナムの記憶が綴られている。虚実ない交ぜとなった日記形式の小説といった味わいがある。細部の描写が幻想的で、官能的な言葉で表現されるのは、淡いおぼろげな世界。東南アジアの空気を味わうのに最適で、今も色褪せていない。2016/12/30

あきこ

3
闇三部作最後の作品。ベトナムでの体験から人間が生きることの真実を問い続けた作者。ベトナムの貧しさ、物質に囲まれ物に捨てられているような先進国の暮らし。睡眠と性、食欲に溺れて暮らし、何かを捜してさまよう心は再びジャングルへと導かれていく。フィクションとノンフィクションの狭間を行きかう作品は読んでいてこちらの心も深く遠いところに探し物があるような、でもそれは何かわからなくて彷徨ってしまう。現代人はもっと彷徨ってもいい。何かを探せ、というのだろうか?未完で終わったことは残念。2014/08/20

外部のウェブサイトに移動します

よろしければ下記URLをクリックしてください。

https://bookmeter.com/books/294556
  • ご注意事項