ジョージ・オーウェル 作;川端康雄 訳、岩波書店、2009.97山中 智貴(社会学部 社会学科 4年)「よき政治とはなんだろうか」「政治とはどうあるべきか」。若い世代や、忙しい現代人にとっては、そのようなことを考える余裕や関心がなくなってきているのが日本の現状でしょう。そこで今回私がおすすめしたい本が、イギリスの風刺・寓話小説『動物農場』です。この小説は、イギリスの作家ジョージ・オーウェルによる作品で、1945年に刊行されました。ジョージ・オーウェルといえば、全体主義的ディストピアの世界を描いた傑作『1984年』が有名ですが、本作もまた、文学作品としてすさまじいパワーを持っています。それでは、内容を簡潔にご紹介します。この作品は、とある農園の動物たちが劣悪な農場主を追い出して理想的な共和国を築こうとするも、指導者の豚が独裁者と化し、恐怖政治へと変貌していく過程を描いています。動物を人間に見立て、民主主義が全体主義やスターリン主義へと陥る危険性を痛烈かつ寓話的に描いた物語です。ここでお気づきかもしれませんが、この小説の風刺の対象はソ連のスターリン主義です。しかも、実は物語の展開自体が、スターリン時代の歴史を忠実になぞっているのです。物語の中で、動物たちは一致団結して、自分たちを長いあいだ隷属させてきた農場主への反逆を成功させます。そして、自分たちのための豊かな生活の実現を目指します。しかし、動物たちを先導していたブタたちが、次第に自分たちに特権を付与しはじめます。さらに、民主主義的に農場を運営していたスノーボールというブタが追放されてしまったことを機に、ナポレオンというブタを筆頭とする専制政治が始まります。そして、民衆である他の動物たちは、空腹や過重労働を強いられ、さらにはスノーボールに肩入れしたものは処刑するという虐殺めいたことも行われます。動物たちはところどころで疑念を持ち、時には声をあげようとしますが、その度に、ナポレオンの側近に言いくるめられたり、大きな声でかき消されたりします。知らぬ間に、同士に支配されてゆく動物たちの切実さに、あなたは共感せずにはいられません。そして私は、この物語はそれほど縁遠い話でもないと思うのです。つまり日本でも時々、動物農場でなされたことと同じようなことが起こっているということです。安倍政権時、公文書が破棄されたり、「桜を見る会」というなんとも馬鹿げた会が税金を使って開かれたりと、政治の私物化とも思えるような問題が多くありました。その度に政府は、責任を認めず詭弁でその場を逃げきるのです。現在、日本の有権者の約半数が投票権を放棄しています。そんな中で、いま一度政治について考えることは、自分のため、社会のため、世界のために決して無駄なことではないでしょう。本作を読むことは、その一助になると確信しています。かく言う私も、つい最近までは政治に一切関心がありませんでした。そんな私が少しずつ政治への関心を強めているのは、この作品を読んでからなのです。特別賞『動物農場:おとぎばなし』
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