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アルバート・アインシュタイン、ジグムント・フロイト 著;浅見昇吾 訳、 講談社、2016.91岡田 多朗(文学部 哲学科 2年)もしかすると今回開催される催しにふさわしくないテーマかもしれません。しかしいつどんな時だって今回私が選んだテーマは普遍的で、一度は目を通してほしい本です。それは戦争をテーマにした作品です。この作品は書簡のやり取りで成り立っていて、さらに著名な学者同士によるものでした。その名はアインシュタインとフロイトです。この書簡のやり取りが成立する背景には、国際連盟からアインシュタインへの通達がありました。それは「今の文明で最も大切な問い」と思われるものについて、手紙を書いてくださいというものでした。これ以降では、彼らが織りなす短い書簡の内容にはあまり触れることはせず、私が雑多なことを書き記したうえで推薦図書を手に取ってほしいというそんな思いです。彼ら二人はそれぞれ共通することがありました。それは互いにユダヤ人であったということです。彼らはナチ党の勃興時には、海外へ亡命をしており、最悪の事態は逃れていました。安全な地域へ逃れられたのは彼らが上流階級だからなのでしょうか。加えて、書簡の数年後には、第二次世界大戦がはじまり、この書簡の交わした意味や意義とは何だったのでしょうかと問いたいものです。つまり彼らのような人であってもできることは限られていて、無力であるということです。当たり前のことで「何をいまさら」とお思いの方もいるかもしれません。しかしアインシュタイン自身は「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのでしょうか」という基本的な問題提起をフロイトにおこないました。要するに、今考えると当たり前のことが、時間を変えると当たり前ではありません。そしてそんなアインシュタインの中に、微力ながらに人類に貢献したいという意志がひしひしと垣間見えてきませんか。一方で1939年には、偉大な功績のひとつである相対性理論を応用した、原子核爆弾(原子爆弾)の開発を、当時の亡命先であったアメリカ政府に求められて承諾をしました。敵国を倒すためとはいえ、あっという間に平和主義者からの立場を変更しました。私はここに人間の危うさが潜んでいると考えられます。自分の意志を捻じ曲げるような出来事にたいして、アインシュタイン本人も後悔をしているという言説もあります。何度も言うように、かのアインシュタインでも過ちを犯すことはあり、偉大な功績を生み出した人間でも何もできないこともあるのでした。私はこの流れから厭世的な生き方、虚無主義的なことを促したいわけではありません。ただ私は8月頃にこの本を読んだことや、8月に戦争を題材とした映画の試写会に足を運んだことなどと通じ合って、複合的に戦争に今になって向き合うことをしました。生と死を考えずに、人はいかに生きるのでしょうか、といったように多くの問いを生み出してくれます。ぜひ読んでみてください。大 賞『ひとはなぜ戦争をするのか』

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