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ミヒャエル・エンデ 作;大島かおり 訳、岩波書店、2005.85綾野 克仁(経済学部 国際経済学科 3年)「時は金なり」。この言葉を聞いたことがない人は少ないだろう。資本主義の時代に生まれた私たちは、経済、社会、個人の成長を目指して日々勉強や仕事をしている。そのために効率的に動き、時間の無駄を無くし隙間時間を有効に使おうと薦める本やテレビ番組も少なくない。それでも私たちは「時間がない」、「時間が足りない」と声に出す。私がここで皆さんに伝えたいのは人間が人間らしく生きることを可能にする豊かな時間を心の中にもってほしいということだ。この物語の核心は「灰色の男」たちである。彼らは町人達に効率的に時間を使い、時間を節約し、時間貯蓄銀行に蓄えることでより豊かな人生を送れると言う。実際には、時間の貯蓄はできておらず灰色の男たちに盗まれていた。効率的に少しの時間で多くのことができることは良いことなのではないかと思うだろう。私もそう思っていた。しかし、そうではないのかもしれない。例を挙げよう。新幹線は昔、京都から東京まで6時間かかっていたが、今では3時間、2時間と短縮されてきた。その分私たちに余裕ができたかというと、そのできた時間は新たな仕事をしなければならず時間を節約できたところで、人間らしい時間の使い方はできない。では、時間の節約を私たちにさせて得をするのは何か。物語の中では灰色の男たちであり、現実には管理する立場の人間やシステムである。人間を規律的に規格化し、効率的に動かせることで企業やそれに付随する社会にも金銭的利益があるのは想像できる。確かに、効率化や管理された人間を育てることで一昔前の時代より暮らしの水準は上がっている。いい服装をし、お金も多く稼ぎ多くのものを買い使う。一方で、現代の人々は不機嫌で、くたびれた、怒りっぽい、とげとげしい目つきになってはいないだろうか。ひとたび時間の貯蓄システムに入ってしまうと、人間の豊かさのようなものが失われ、人々はむしろ貧しくなっていく。これはここ数年で起っていることではなく産業革命から約200年かけてなってきたものであると思う。今私たちは普通に学校に通い、卒業したら仕事をしてなど社会のルールに従っている。それは私たちには普通で何も悪いことではないように思ってしまう。このことがまさに、自分は社会のどこかに埋め込まれており、知らぬまに管理されていたことを気づかせてくれる。現代社会の中で、何か分からない不安やすっきりしない気持ちを持つ人はその原因の一つはこの本が解決してくれることだろう。モモの考えを読み解く過程であなたの暮らす日々の時間は豊かであるか、自分の時間は何かを考え直す足がかりになる。優秀賞『モモ』

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