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フランソワ・デュボワ 著;木村彩 訳、講談社、2019.76黒田 聡実(文学部 日本語日本文学科 2年)書名にある「理論」と「法則」の文字を見て、手に取るのを躊躇するのは早計である。本書は作曲の理論や法則のみを述べているばかりではない。最初は作曲の基本である音楽記号の解説からである。普段から楽譜を見る人にも、そうでない人にも作曲とはどういうものなのかを伝えようとしている。また、著者であるフランソワ・デュボワの作曲、演奏、合奏に関するエピソードが、楽器の紹介と織り交ぜながら描かれている。マリンバ奏者の著者ならではの視点で描かれる楽器の紹介は、辞書のように一つの楽器を解説するのと一味異なる。紹介する楽器とマリンバとの組み合わせ、または著者自身の過去のエピソードもふんだんに取り入れられている。「作曲とは数学である」。本書のはじめに書かれている言葉である。私はこの言葉を、作曲することは数学の問題を作るようなものであるという意味でとらえた。そして、実際に読み進めていけばいくほど、作曲にはさまざまなルールがあり、それが実に数学的であることを知った。例えば、一小節に入る音の長さは、拍子が決める。その拍子にしたがって、音符や休符の長さを計算しながら書き入れていくのである。本書では、これを「足し算」と表現している。和音を作る場合は、この音とこの音を組み合わせると、美しく響く協和音になるという定理がある。美しく響く定理があるのだから当然のごとく、耳障りに聞こえる不協和音の定理も存在する。世間一般がクラシック音楽の作曲家と呼ぶ人たちは、わざと曲の中に不協和音を登場させるようなこともした。これは、ありきたりな和音に慣れて、飽きてしまったからである。本書において、和音は「かけ算」と表現される。そのように表現される理由は、2つの音だけでなく、3つ、4つと、いくつもの音を同時に鳴らすからにほかならない。そして、和音は複数の楽器を用いて奏でられることもある。この楽器の組み合わせも「かけ算」と表現される。読み終わった後に、曲を作る過程が数学の問題を作るようなものであるならば、世の中に流れている曲を分析することは、数学の問題を解いているようなものだと感じられる本である。優秀賞『作曲の科学:美しい音楽を生み出す「理論」と「法則」』

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