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佐々涼子 著、早川書房、2014.優秀賞『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている:再生・日本製紙石巻工場』山田 京花(政策学部 政策学科 3年)みなさんが今読んでいるその本の紙が一体どこで造られているか考えたことはありますか?私はこの本を手に取るまで"誰が書いた作品か"ということは気になってもこの紙が"どこで造られているのか"ということは考えたこともありませんでした。2011年3月11日、未曾有の大地震が東日本を襲いかかり、この本の舞台である宮城県石巻市製紙工場は津波により飲み込まれ、工場としての機能を全て失ないました。近隣から運ばれてきた2階部分18棟、自動車約500台が工場内に浸かっていたといいます。日本製紙石巻工場は日本の出版用紙の約4割を担っており、1年間で約1000万トンの紙を生産しています。国民的大人気漫画の一つ『ワンピース』や誰もが涙した百田尚樹氏の『永遠のゼロ』の紙を手がけるいわば製紙工場の中枢です。そして、この本に思わず引き込まれてしまうのは、そんな絶望の中でも再起をかけて繰り広げられた熱い男たちのドラマがあったからです。工場の機能が全て停止した中で工場長はある決断を下しました。—半年でマシン一台復旧—早くても3年かかると考えられていた復旧を半年で復旧と言い出したのです。電気すら通っていない中この一言により従業員は唖然とします。しかし、そこへ様々な声が工場へと届けられます。”石巻市製紙工場の紙を私たちは待っています。”それは石巻市製紙工場の紙を待ち望む多くの出版社の熱い声でした。自分たちの紙が必要とされている、そんな思いに突き動かされ社員は皆一丸となり復旧作業を始めます。泥を掻き出し、瓦礫を撤去、来る日も来る日も作業を続けそこからのチームワークは驚異的でした。電気課が粘り強い努力によりボイラーに電気を通したかと思えば、それに負けじと次の課その次の課へとたすきは繋がれ復旧作業はみるみる進んでいきました。紙を待つ人のために!その一つの想いがバトンとして受け渡されていったのです。そしてついに、震災から半年後の9月14日、初稼働の日はやってきました。多くの関係者が見守る中、操作パネルのスイッチが押されマシンはゴーッ!という大きな音を立てながら運転を再開したのです。この感動の渦の中、私が一番心に響いた最後のシーンを紹介したいと思います。盛大に盛り上がる場からはずれ、機械のそばを動き回っている男がいました。別の社員が『中に入らないのか』と聞くと「裏で色々調整があるから」と男は答えます。そして社員は言います。『本当に工場を支えている人間っていうのはこういうところにいるんだよな』と。表舞台で頑張る人もいれば見えないところで頑張っている人もいる。そんな一面を思わせるこのワンシーンに私はとても心を打たれました。みなさんにもぜひ一度この本を手にとり、今読んでいるその本がどんな熱い想いを込められて作られているのか惟るきっかけになれば幸いです。68

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