小国士朗 著、あさ出版、2017.67藤本 夏凜(経営学部 経営学科 3年)「注文をまちがえる料理店」なるものを知っているだろうか。その料理店で注文を取るスタッフは、全員認知症を抱えている。ついさっき取ったばかりの注文を忘れてしまうことや、出来た料理を違うテーブルに運んでしまうこともしばしば。はっきり言ってめちゃくちゃなのだが、お客さんはみんなニコニコしていて、怒る人は一人もいない。普通の飲食店ならこんなことはあり得ないと思うが、この店には「まちがっても大丈夫」という温かい空気が漂っている。この『注文をまちがえる料理店』という本には、アイデアを思い付いたきっかけや出店に至るまでの経緯、そして、現場で実際に起きた心温まるエピソードが多数収録されている。数年前に亡くなった私の大叔母は、認知症だった。年に数回顔を合わす程度の関係だったが、同じ話を何度もされる・させられるのは当たり前で、私を他の誰かと間違えたり、何の前触れもなく態度が豹変したりすることもよくあった。そんな大叔母と過ごす時間は私にとっては少し苦痛で、いつのまにか認知症というものに対してマイナスなイメージばかり持ってしまっている自分がいた。でも、この本を読んでその考えはがらりと変わった。この料理店には、まちがえることをただ「受け入れる」だけではなく、まちがえることを「一緒に楽しむ」というコンセプトがベースとしてある。実際、「あらら、まちがえちゃった」と苦笑するスタッフと、それを笑って見守るお客さんの姿がよく見受けられるという。中には、そんなの不謹慎ではないかと思う人もいるかもしれない。だけど、この料理店にはその意見を超越するほどの大きな価値があると私は思う。認知症を抱えていたって、周りの理解とサポートがあれば働くことができる。人を困らせるだけではなく、笑顔にすることだってできるのだ。この本の中で描かれている認知症の人々の姿は、私が認知症というものに対して持っていたマイナスイメージを少しずつ払拭してくれた。また、本の中で、認知症をひっつき虫に例えている話が出てくる。元から「認知症の○○さん」だったのではなく、その人にたまたま認知症というひっつき虫がついただけで、本人は何も変わっていないという話なのだが、私はこの部分にとてもはっとさせられた。この料理店のようなほんのちょっとの寛容さを社会全体が持つことができたなら、どんなにいいだろうか。大叔母のまちがいを受け入れ、一緒に楽しむことはもう出来ないけれど、私のこれからの行動は変えられる。決して今からでも遅くはないと、この本のおかげでそう思えた。大 賞『注文をまちがえる料理店』
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