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63馬場 友理(社会学部 地域福祉学科 3年)「勉強のため」「情報を得るため」「レポートを書くため」—本を読むことが手段となり、他のことのために本を読む—子供のころはそうでもなかったはずなのに、大人になるにつれて本読むことを目的とせず手段としているという人は多いのではないだろうか。そして、本を手段とすることで、本を読むことに楽しみを見出せなくなったという人もまた、増えているのではないだろうか?かくいう私もその一人だ。本を読むことに疲れ、文字を見ることに疲れ、本を読むことが嫌にさえなった。本書は、本を読むことが好きな人だけでなく、本を読むことに苦手意識を持つ人にとっても、どのような人にでもお薦めできる本である。本書は『世界の美しい透明な生き物』と題目にあるように、世界中の植物から動物に至るまで、さまざまな透明な生き物について書かれた図鑑と写真集の中間のような本だ。そのためこの本は、一般的な本によくある制約である「最初から順番に読んでいかなければならない」ということがない。好きなときに好きなように好きなページから読んで、好きなように楽しめる本なのだ。更には、写真が主であるため、しっかりと読まなくても十分に楽しめる本として成立している。そのため、疲れたときにわざわざ意識して文字を追わなくても、文章の意味を理解するために何度も読み込まなくても、眺めるだけで楽しめるのである。写真を眺めたいのなら本でなくともインターネットで画像検索でもして眺めていろ?なるほど、もっともである。けれどもこの本は、本という形態である意味もきちんとあり、文章を読むことでより楽しむことができる構造になっている。美しい生物の写真の横に、下に、時には見開きに、それぞれの生物についての説明がわかりやすく書いてあるのだ。つまりこの本は、写真集のように写真を眺めるだけでも楽しめるし、そこに書かれている文章を読めば更に楽しむことができる—まさに、一粒で二度おいしいならぬ、一冊で二度おいしい本なのだ。この本は、読んだところできっと何の役に立つこともないだろう。就職するとき役立つこともないし、将来に役立つわけでもないし、レポートを書くときに役立つこともない。けれどもこの本は、我々が忘れていたかつてのときめきを、ワクワクを、好奇心を思い出させてくれる。本書を読むことで、魅力あふれる透明な生き物たちの美しさを、奇妙さを、そして何より縛られることなく本を読むことの面白さを、改めて知ってみてはいかがだろうか。優秀賞『世界の美しい透明な生き物』武田正倫、西田賢司 監修、エクスナレッジ、2013.

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