ダニエル・キイス 著;小尾芙佐 訳、早川書房、1989.60佐藤 涼平(文学部 日本語日本文学科 2年)「知能は人間に与えられた最高の資質のひとつですよ。しかし知識を求める心が、愛情を排除してしまうことがあまりにも多いんです……」と、本書の主人公のチャーリーは述べている。チャーリーは、32歳になっても、幼児の知能しか持たないパン屋の店員である。しかし、あるとき、大学の先生から「頭をよくしてくれる」といった旨の申し出があり、それを受けたことにより、知能が上昇していく。その過程で、チャーリーは、知識と愛情の間で揺れ動く。私は大学に入って知識を探求する過程で、数々のことに対して憤りを覚えてきた。たとえば、これまで受けた教育のデタラメさに対してである。教科書に記されていること、授業で教えられていたことは、あくまでも通説であり、絶対的なものではない。そのことに気が付かされたとき、私は世界がどれだけ矛盾に満ちているかということを痛感した。その憤りは現在も消えていない。しかし、憤るだけではなく、なんとかして憤りを昇華させたいと思う。そのための手段を模索している。チャーリーと同じように、知識を求める過程で、大きく変わってしまった方はいないだろうか? 身近なひとからの愛ある助言も論理が通っていないと受け入れられなくなってしまった、愛情を排除して知識ばかりを求めるようになってしまった、そんな方はいないだろうか? 私はその中のひとりである。只々、知識ばかりを求め、愛情をないがしろにしている。しかし、その一方で、いつも愛情に飢えている、愛情を乞い続けている。知識と愛情が共存する道はないのだろうかと、常々考えている。本書にその問いに関する明確な答えは記されていない。しかし、この物語は、自らを見つめ直すためのモノサシとなりうる。知識に偏り過ぎていないか、愛情に偏り過ぎていないか、私は座右にこの本を掲げ、日々、自分を見つめている。もし、この本に出会わなかったならば、私は知識のみを求める孤独な人間となってしまっていたように思う。大学時代にこの本に出会えたことに、心より感謝している。誰かにとっても大切な本になるようにと願いを込めて、司書課程受講生であり、龍吟会に所属する私は、本書を推薦する。大 賞『アルジャーノンに花束を』
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