4選考委員 三原 龍志今回で第10回の節目を迎えたこの「私のお薦め本コンテスト」ですが、私は第2回から選考に携わってきました。毎年、深草図書館の村上さんから依頼があると、選考のことを考えて気が重くなるところも正直ありました。しかし、本離れが言われて久しいこの時代にこんなに多くの学生が、自分の好きな本の魅力を伝えようと真摯に取り組んでいる姿を思い浮かべてこちらの胸も熱くなります。応募した学生の本に対する思いはどれぐらいだと思うかと問われると、16世紀のドイツの宗教家であるマルティン・ルターの言葉だと言われている言葉をもじって「そう聞かれた学生はきっと『たとえ明日、世界が終わりになろうとも、私は1冊の本を読む』と答えるだろう」と思うぐらいです。さて、この「私のお薦め本コンテスト」、この10年で357点の応募があったとのことですが、私が読ませてもらった応募作品を通して心に残っていることを少しまとめて書いてみようと思います。未だ私たちに災厄をもたらし続けている新型コロナウイルス感染は今更何が新型なのかわからないぐらい凡常となってきていますが、その一方で屋内で過ごす時間が増えたことで、本と向き合う機会も増えたのではないでしょうか。特に今回は、複数応募の件数が多く、応募作品の一つひとつを読むとお薦めの本との出会いが、窮屈さや葛藤を抱えている日々の中で勇気づけられ慰められた寄り添いの言葉との出会いとなったことが、推察されました。これまでの応募作品で扱われているお薦め本のジャンルや内容はさまざまで、私にとっても書名も知らなかった本や読んでいなかった本の内容を知ることができたり、読書経験のある本についても新しい解釈や読み方に気付かされたりと発見や共感、啓発の機会となりました。また、これまで目を通した応募作品を厳密に分類することはできませんが、強引に分類するとしたら、おおよそ次の2つのタイプに分けられるように思います。1つは、主に小説のストーリーの面白さや登場人物の魅力を伝えようとする作品です。ユニークな書き方であったり、構成を工夫を凝らしたりして応募作品の書き手(以下、書き手)が、応募作品の読み手(以下、読み手)にぜひこの本を紹介したいという気持ちに溢れています。もう1つは、書き手自身が自らの体験や環境とお薦め本の内容との関わりから書き手の生き方や考え方に影響を与えたり変容をもたらしたことを伝えようとする作品です。お薦め本を読まなくても作品を読んだだけで印象深く感動を覚えます。読書の醍醐味は、本を媒介に著者と読者とのインタラクティブな活動や、本との個人的な密かな愉しみに喩えられたりしますが、例えばビブリオバトルや読書会は、内なる読書体験を言葉に発することで参加者間でそれを同時に共有する場になっています。しかし、この「お薦め本コンテスト」は、その言葉を文字にして書き手と読み手が1冊の本にまつわる内容をそれぞれのペースで共有できます。文字にすることによって書き手は自分を発見し、文字にされたものを読むことによって読み手は他者を発見することができるのです。もちろん現在は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で多くの人々がさまざまな内容を発信する時代になっていますから、それで読書体験や、お気に入りの本の紹介文を読むこともできます。それは身近で気軽なコミュニケーション手段としての利点もありますが、この「お薦め本コンテスト」は対象図書や字数制限などちょっとした応募要件がついているだけに、また読み手が龍谷大学の学内関係者が中心であるとは言え多様な読み手が想定されしかも同時性が成立しないだけに、その分、SNS「私のお薦め本コンテスト」この10年をめぐって
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