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鳥山石燕 著、角川学芸出版、2005.神田 脩一郎(文学部 日本語日本文学科 2年)日本人はどうも妖怪というもの(モノ・物?)が好きらしい。妖怪について少し考えてみれば近年、大ヒットをした「妖怪ウォッチ」がまず脳裡に浮かぶ。もっと時間をさかのぼってみれば「ゲゲゲの鬼太郎」なんてものもある。そんな、日本に多くの影響を与えてきた妖怪は江戸時代にはどんな姿をしていたのだろうか。またどのようなものと人々にとらえられてきたのだろうか。そこで『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』の出番である。本書は江戸時代の画家鳥山石燕が描いた妖怪画集「画図百鬼夜行」「今昔画図続百鬼」「今昔百鬼拾遺」「百器徒然袋」の四作を一冊のコンパクトな文庫本にしてくれている。本書は決まった読み方があるわけではない。画集であるから当たり前だが、小説みたいに頭から終いまで順に読まなくてはいけないということもない。ぜひ自由に漫然と眺めて欲しい。しかしお勧めの読み方がある。まず本の中で有名な妖怪を探し出して見てほしい。そしてそのあとにインターネットか何かでその妖怪について検索をかけてみる。すると時代が異なるため姿形にかなり違いもあるが基本的な特徴は一致することが多いと思う。それもそのはずで鳥山石燕の妖怪画はその後の妖怪文化に大きな影響を与えている。有名な「ゲゲゲの鬼太郎」の作者、水木しげるも石燕の妖怪像を下敷きにして多くの妖怪を描いている。本書には多くの妖怪画が描かれているが、妖怪画と言いながら別段怖いと感じる作品は少ない。どちらかといえば今日のキャラクターに近い姿の妖怪も多くいる。石燕の妖怪画は基本的に人を怖がらせることを目論んで描かれていない。そこにいるのはクスリと笑ってしまう、しょうもない妖怪たちだ。本書を見るときにはその点にもぜひ着目して欲しい。その昔、江戸時代の人々もこの石燕の妖怪画を見ながらクスリとしたに違いない。そう思いながら眺めてみても楽しい。ちなみに私のお気に入り妖怪は琵琶牧々である。本書を手に取った際にはぜひ探してほしい。江戸いやおそらく太古から現在にまでつながる日本妖怪文化の一端を垣間見、またそれを純粋に楽しもうとするのならばこんなに良い書物はない。ぜひ一読してクスリとして妖怪たちに慣れ親しんで欲しい。53優秀賞『鳥山石燕画図百鬼夜行全画集』

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