52龍村 薫(文学部 真宗学科 3年)私は、昨年7月に40年間の会社生活を終え、今年4月に文学部真宗学科3回生に編入した、昭和28年3月生まれの63歳です。もともと読書が好きで、会社員時代の通勤の電車内でいろいろな本を片っ端から読みふけりました。その中で気に入った本の中の一冊を紹介したいと思います。第二次世界大戦が終わって、はや71年が経ちました。戦争経験者が少なくなり、悲惨な体験談を話すことができる人が、身の回りにいなくなってきました。国会では、再び日本を戦争に参入させようとするかのごとき法案を上程する議員も現れてきており、このままでは日本が昭和初期に舞い戻ってしまいそうです。将来を担う若者に、戦争がどのようなものであるか、得るものよりも無くすものがいかに多いかを考えてもらうことが喫緊の課題だと思います。このような世相の中で、龍谷大学の若者にぜひ読んで欲しいと思った作品が、『永遠の0』です。敗戦が目に見えている第二次大戦末期に、多くの若者が特攻機に乗ってカミカゼアタックを繰り返し、無駄な命を落としていった事実を二度と繰り返してはならない。この物語を読んで、戦争をやりたいと思っている少数の人たちに、多くの善良な日本国民が犠牲になったことを重く受け止めて、若者一人一人が今何をすべきか、どうすれば日本国民が戦争に巻き込まれないかを考えていただきたい。私は、この9月に文学部真宗学会の研修旅行で鹿児島に行きました。初めての鹿児島だったのですが、そのスケジュールの中に知覧の特攻平和会館見学ツアーがありました。最初に、知覧の特攻隊に関する説明をしていただきましたが、説明された方も戦後生まれの方でした。経験者は高齢のため説明できる人はもういないとのことでしたが、知覧の悲惨な特攻隊の有り様をこれからも後世に語り継がなければならないと、熱く語られていました。展示物の中に特攻隊員の遺書が数多くありましたが、私は悲しくてとても読むことができませんでした。特攻作戦は終戦までに第11次攻撃まで行い、総勢1,036名の隊員が戦死しました。その戦死者名が展示物の中に掲げられていましたので、供養になるかと全員の名前を口の中で読み上げることにしました。心の片隅で、ひょっとしたら「宮部久蔵」の名前に出会えるかもしれないという思いがあったのかもしれません。残念ながら名前はありませんでした。「宮部久蔵」という名前は、百田尚樹が『永遠の0』という作品で創作した名前だったのですね。『永遠の0』はフィクションかもしれませんが、戦争の悲惨さを私たちに訴えかける名著だと思います。是非とも、龍谷大学生諸君に読んでいただきたいと思います。優秀賞『永遠の0(ゼロ)』百田尚樹 著、講談社、2009.
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