加藤陽子 著、朝日出版社、2009.祢津 宗高(法学部 法律学科 3年)私のお気に入りの本は加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)だ。加藤陽子氏は山川出版の教科書日本史の編者の一人で近代の軍事史が専門だ。この本は戦前の大日本帝国がなぜ、どのようにして戦争へと突き進んでいったのかの概要を取り扱っている。日清戦争、日露戦争、日中戦争、アジア太平洋戦争等を戦争指導者たちの視点で解説している。この本は多くの論点を取り上げているが、私は特に二つの点が印象的だった。まず気が付くのは、現代と近代で発生している諸問題が極めて類似している点だ。本書でも取り上げているが、日中戦争とイラク戦争はその良い例だ。日中戦争もイラク戦争も、開戦経緯も戦争目的も非常に曖昧なのに、長期に及び泥沼化していっている。ここからわかるのは目的も意味もない戦争は今日でも、どんな国でも、十分発生しうる、ということだ。同時にこうした事態に陥らないように冷静な判断と手続きの重要性も見えてくる。日中戦争については更に興味深いことが見えてくる。日本が現地軍に引きずられて事後承諾をして消耗していくのに対し、中国国民党は「日本切腹、中国介錯」のもと、国土をどんなに侵略されたとしても戦い続ける暗い覚悟の下、徹底抗戦の意思を固めていく。「強い衝撃を与えれば敵を屈服させることができる」といった考えが幻想であることと、「先の大戦でアメリカには負けたが、中国には負けていない」という主張が戦略レベルでは必ずしも当てはまらないことが見えてくる。次に気が付くのは、主観的に見た意味づけと客観的に見た意味づけは異なることがある、という点だ。本書の中では日露戦争における日本側の意図と、対外的に見た日露戦争での日本の意図とがズレていることが指摘されている。我々も「自分の言いたかったこと」と「他人が受け取られたこと」のズレによってしばしば日常生活の中で混乱をきたす。認識のズレが長期にわたり、且つ拡大していくと深刻な問題になっていくことが満州を通してわかってくる。こうした状況にならないためにも、外交による対話によってそのズレを小さくする、という作業がいかに重要であるかがわかる。この本では、過去に起こった事象は現在でも発生しうることを示唆していると私は思う。ワイツゼッカー元独大統領は「過去を忘れぬ責任」を主張した。過去を直視し、分析し、今日に生かしていくことの重要性を投げかける本だと私は感じる。44優秀賞『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』
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