ディケンズ 著;小池滋、石塚裕子 訳、岩波書店、1986.43真方 翔平(文学部 歴史学科 2年)みなさんは〝冬〟と聞けば、何を一番最初に思い出すでしょうか。雪、鍋、お正月—挙げだすときりがないですが、私は、自分の見た目に構わず「クリスマス」を連想します。そして「クリスマス」を想起してしまえば、文学好きを自称している人間として口に出さずにはいられないのが、様々な演劇や映画によって語り継がれている小説『クリスマス・キャロル』であり、その著者こそ、今回私がお薦めする作品を手掛けた人物であるチャールズ・ディケンズなのです。彼の手掛けた作品は『デイヴィッド・コパフィールド』、『大いなる遺産』など多くは長篇小説ですが、この度は短篇小説の中から2篇を紹介したいと思います。一つ目に紹介するのは『墓掘り男をさらった鬼の話』という作品です。題名だけを見ると何のことか分かりませんが、あらすじは次のようなものです。陽気な歌声が一軒一軒の家から聴こえてくるようなクリスマスの夜に、不平不満を口にしながら仕事場へと向かう墓掘り男のゲイブリエルが、墓地で遭遇した鬼から叱責をくらい、様々な境遇に生きる人間たちの姿を見せられることになって—。私がこの作品において薦めたいポイントというのは、ずばり描写です。前半においては「暗い小径」「墓地」など、いかにも陰惨とした雰囲気が漂う描写があると思いきや、後半部分になると、打って変わって、自然や人間の営みが優しく温かいタッチで描かれていて、その対比が両部の特徴を色濃くしていると感じました。人間は消極的な視点で物事を見れば、なんでも暗く見えてしまう。本当にそれには「明るさ」は感じられないのか。そんな問いを投げかけてくる作品でした。次に紹介したいのは『グロッグツヴィッヒの男爵』という短篇です。正直言って読みにくくて仕方がない題名ですが、中身は非常に読みやすいものとなっています。あらすじは、ドイツのグロッグツヴィッヒの男爵であるフォン・コエルトヴェトウト(これも読みにくい)が、血気盛んな若い時代から結婚を経て子供を多く授かり、それによって財源が尽きて借金まみれになって、自殺を決心する—という一人の人間の生涯をユーモラスに綴ったものです。私がこの作品を薦めたい理由は、何と言っても最後の一段落の文言にあります。中身をここで記すのは勿体ないと思えるので書きませんが、この一段落を読む前と読んだ後では、気持ちの在り方が180度変わっていました。いろいろ悩み事があって気落ちしていたのが、すっかり元気になっていました。すっと気分転換ができる、魔法のような作品です。以上2篇を紹介しましたが、他にもこの短篇集には、心に突き刺さる名作が多数収録されています。今回お薦めした2篇をきっかけとして、手にとって頂けると幸いです。優秀賞『ディケンズ短篇集』
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