サキ 著;河田智雄 訳、岩波書店、1981.37真方 翔平(文学部 歴史学科 1年)「読み終わる前に飽きる」「時間がとれない」「難しい内容にはついていけない」—私が「読書」に対して抱いていたこれらの“負”の印象を、覆してくれた作品こそ、今回私がお薦めする『サキ傑作集』である。私がこの本を薦める最大の理由は、何と言っても、背筋凍る結末に出会うことができるという点である。この短編の著者である「サキ」は、ディズニー等がオマージュしたことでも有名な『賢者の贈り物』の作者「オー・ヘンリー」と並び短編の名手と呼ばれている。つまり簡単に言うと、短編業界では知らぬ者はいない2人であるということである。私がこの作品と出会ったのも、「オー・ヘンリー」からの経由がきっかけであった。私は、あっと驚かされるような結末(オチ)を持つストーリーが好きで、星新一作品やテレビ番組「世にも奇妙な物語」を好んで見ているようなこともあって、すぐに、残酷な最後を用意してくれる作家「サキ」の虜になってしまった。私は今回、傑作集の中から、特に彼の売りである「オチ」を味わえる短編2作を取り上げ、紹介する。一つ目に紹介するのは、『二十日鼠』という短編である。この短編は、セオドリック・ヴォラーという男が、狭い汽車の個室を舞台に、二十日鼠と女性に翻弄されていく姿が描かれている。大抵の短編小説というものは、オチが何となく予想出来てしまって、結果当たってしまうことが少なくない。しかし、この『二十日鼠』という作品の場合、結末を予想出来てしまう材料が見当たらず、考える隙も与えられないまま、予想外の結末にたどり着いてしまう。まさに、短編小説の鏡ともいうべき一作であると思うので、薦めたい。二つ目に紹介したいのは、『開いた窓』という短編である。この短編は、神経衰弱の治療のために、とある夫人の家を訪れていたフラムトン・ナトルという男が、姪から、なぜ十月の午後という寒い時期にも関わらず、部屋の窓が開いたままにされているのかの内訳を聞かさせる。そしてその内訳が恐怖を呼び起こしてしまう引き金になるという作品である。先程紹介した『二十日鼠』とは対照的に、『開いた窓』は読んでいくと何となく結末が予想できてしまうのだが、「うわ、そういう終わり方か…。」と思ってしまうような、不気味さに溢れたオチが待っている。文量も少ない上に、とりわけ「サキ」らしい冷たさを感じられる作品なので、薦めたい。「サキ」の短編には、他の作家、作品に派生して読んでみたいと思わせてくれる、不思議な原動力が詰まっていると思う。読書愛好家に限らず、「読書」に対して妙な嫌悪感を抱いている人にも、是非読んでいただきたい作品である。優秀賞『サキ傑作集』
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