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鎌田洋 著、ソフトバンククリエイティブ、2011.36小椎尾 紗綾香(文学部 哲学科 4年)世間体とは、何故こんなにも気にかかるものなのだろうか。「他所は他所、うちはうち」とは言えども、私たちはまわりの人々からの評価と無関係には生きていけない。皆が持っているからとおもちゃをねだる子どもは「うちはうち!」と跳ねつけられるが、周りから眉を顰められるようなことをする我が子に「うちはうちでしょ!」と言われても、それはそうだとはなかなかならないだろう。そして、誰の目から見てもはっきりと分かる学歴や仕事は、世間の目の標的となる最たるものではないだろうか。私の内定先はお世辞にも「華やかな仕事」とはいえないものである。しかし人々の日常に深く関わるものであり、生活にはなくてはならない役割を担っている仕事である。そう分かっているつもりなのだが、ついつい世間体が気になって、本当にここで働くと決めてよいのだろうかと何度も悩んだ。面と向かって誰かに何かを言われたわけではないのだが、私自身が、子どもが将来の夢に挙げたり、たくさんの人が羨む業種に憧れていたからかもしれない。そんな時に読んだのが本書である。現在のディズニーランドで最も人気のある職種は「カストーディアル」と呼ばれる清掃員であるという。著者は東京ディズニーランドのオープン当時、初代カストーディアルに配属された。清掃員と聞くと、私たちはつい裏方的なイメージを受けてしまう。著者自身も、華やかなディズニーランドに憧れて入社したのに清掃員なんて……と落胆を隠せないでいた。しかし、アメリカのディズニーランドの初代カストーディアルのチャック・ボヤージン氏との出会いによって、著者の意識は変わっていき、その後著者が関わる人たちの心も動かしていくのである。本書に出てくる人物たちの多くは、はじめは掃除という仕事に良いイメージを抱いてはいない。自分自身や自分の家族が掃除の仕事についていることに劣等感を抱いている人もいる。その姿が、未来の自分の姿と重なった。しかし、そうではないということにもこの本に気づかされた。真夜中のディズニーランドでの清掃業務を通して、彼らは自分たちの仕事のもつ役割に、それがゲストのパークで過ごす素晴らしい時間には欠かせないことに気づいていくのである。カストーディアルの仕事はもちろん清掃である。しかしその仕事の先にカストーディアルの本当の役割がある。それは見かけの華やかさよりもずっと尊い役割なのである。そしてそれは、どんな仕事であっても同じことだろう。来年から、私は社会人として働くことになる。目先の忙しさや疲れにとらわれてしまいそうになることもあるだろうが、自分の仕事が持つ大切な役割を見失わずにがんばっていきたい。優秀賞『ディズニー そうじの神様が教えてくれたこと』

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