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田坂広志 著、東洋経済新報社、2009.35野路 なつみ(経済学部 国際経済学科 3年)真っ白な表紙に、小さくオレンジ色でタイトルが書かれたこの本が、まさか、こんなにも日本人であることに誇りを感じさせ、そして日本人としての使命感を与えてくれるとは、思いもしませんでした。難しい経済用語が用いられた評論文を想像させるようなタイトルですが、実際はそうではありません。本書は経済書でありながら、哲学書でもあります。世界経済フォーラム、通称ダボス会議にて、世界各国の著名な政治家、経営者、経済学者などの専門家たちにより議論されることは、「現在の世界経済危機をどう解決していくか」に集中していて、「これから資本主義に何が起こるか」つまり、資本主義の進化についてはあまり論じられません。それは、多様な価値を「貨幣」という単一の尺度で評価する、「貨幣経済」の枠組(例えばGDPなど)の中でしか資本主義を論じていないからです。そこで、目に見える「貨幣経済」の枠組の中だけでなく、多様な価値を多様な尺度で評価する、目に見えない「新たな」枠組の中での議論が必要、というのが著者の主張です。その「新たな」枠組とは、『資本論』で有名なカール・マルクスが資本主義の未来を予見するために用いた「弁証法」という哲学です。例えば、その弁証法の法則のひとつである「螺旋的発展の法則」とは、古いものは、あたかも螺旋階段を登るように、新しい価値を伴って復活するという法則です。そこで、古き良き日本型経営や日本型資本主義に、新たな価値を伴わせて復活させようというのです。日本には「ものづくり」や「おもてなし」、「もったいないの精神」など、永い歴史と伝統の中で培ってきた、「目に見えないものに価値を見出す文化」があります。単なる文化の輸出ではなく、目に見えないものに価値を見出す文化の力によって、私たち日本人こそが、世界に貢献するべきなのです。本書を読むまで、経済学部生として、経済を語るにはマクロ経済学やミクロ経済学といった専攻科目こそが大切であり、必要と思っていましたが、そうではないことに気付かされました。大学での教養科目や語学にも、すべてに意味があり、またそれらの教養は経済を語るにおいても役立ちます。そしてなによりも「日本人である」というアイデンティティが、「これからの資本主義になにが起こるのか」を見出すにあたって素晴らしい財産となります。素晴らしい財産をもった私たち日本人が、世界の経済危機を救うために立ち上がるべきなのです。大 賞『目に見えない資本主義:貨幣を超えた新たな経済の誕生』

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