戸部正直 著;今村義孝 校注、人物往来社、1966.27永田 雄暉(経済学部 国際経済学科 3年)歴史に興味をもつ人々の中で「戦国時代」という言葉にまったく反応しない人は少なくないだろう。日本各地にそれぞれ名立たる武将や大名、あるいは天下人と呼ばれ、歴史に名を刻む人間を数多く輩出した時代だ。彼らの偉業にある人は心躍らせ、またある人は現代を生き抜く知恵を求める。私は前者であり、ただ歴史に浸ることが好きなだけだ。本書を手に取った理由も「東北の歴史も面白そうだ」と思ったからだ。本書はタイトルのとおり奥羽、現在の東北地方に焦点を当てた軍記物だ。上下巻併せて、永禄年間から慶長年間までの東北地方における戦乱を記している。文体は注釈こそつけられているが古文であり、現代語訳もない。しかし私は古文で読むことによって、かえって趣を感じることができたし、辞書とにらめっこでなければ読めないような難解さでもない。また本書の構成は伊達政宗をはじめ、当時の状況から様々な場面で話に加わる人物はいるものの、基本的に特定の人物を中心に話を進めるものではなく、いわゆるオムニバス形式で話が進んでいく。この本ひとつで当時の東北の情勢が分かるといっても過言ではない。軍記物と題したが武将達のエピソードが合戦だけでなく政治や日常など多岐にわたって記されているところにも注目だ。私が特に魅力を感じた部分は、地域を限定した軍記物によく見られる、在地の武将たちの活躍だ。彼らは「戦国時代」を代表する織田信長や豊臣秀吉、徳川家康のような天下を揺るがす大戦は引き起こさない。天下からみればあまりに小さな自らの領地のために知恵を絞り、必要とあれば敵と干戈を交える。その必死な姿に私は感嘆を覚える。最近では『のぼうの城』という邦画があったが、これも関東に小さな領地をもつ武将にスポットを当てた作品で自分の領地のために、天下の豊臣軍と戦った武将たちの姿が描かれたものだった。時代を経ていくにしたがって衰退していく由緒ある名家の悲哀を綴るエピソードや弱小国の家運をたった1人で切り開き、天下にその存在を認めさせる爽やかなエピソードもあれば、権謀術数でのし上がる梟雄のエピソードもある。「戦国時代」という言葉に興味をそそられたことのある人、武将達に心躍らせた人にこそ本書を手に取ってほしい。一度「戦国時代」に惹かれた人はきっと東北の歴史に浸れるはずだ。優秀賞『奥羽永慶軍記』
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