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25佐竹 青空(社会学部 臨床福祉学科 4年)大学のある講義で教授が、「地下鉄サリン事件とは、どういった事件か知っている人?」と質問した。その時、わずかにしか手が挙がらなかったことに驚いた。私自身、ドキュメンタリー番組を見たという程度の知識しかもちあわせていなかったのだが、近年稀にみる凶悪な事件が風化しつつあるということに驚いた。そこで、この事件についてもっと知りたいと思い、様々な本に手を伸ばした。その中でも、この『アンダーグラウンド』は異質なものだった。多くの著書は、犯行側、つまり、オウム真理教側について追及しているものだったが、この本を構成するのは、この事件における被害者62人のインタビューである。つまり、被害者側の立場からこの事件を見つめているものだった。ノンフィクションとは、事実を克明に忠実に描きだすものであり、ノンフィクションの文章の魅力を決定するのは、取り上げる題材のもつ異常性やストーリーだと思っていた。この、『アンダーグラウンド』で取り上げられている「地下鉄サリン事件」は、1つのカルト的宗教団体が起こした同時多発テロ事件、というノンフィクションの題材として申し分のない異常性、ストーリーを持っていると言えるだろう。しかし、この作品の魅力はそれだけにとどまらない。この作品をさらに味わい深いものにしているのは間違いなく、村上春樹氏のインタビュアーとしての資質である。被害者一人、一人に寄り添い、痛みや悲しみだけにスポットを当てるのではなく、その人生に明かりを照らし、掬いあげている。インタビューに基づいた村上春樹氏の文章には、当たり前の日常を生きていた人々が、唐突に、地下鉄サリン事件という波にのまれ、動かされ、その痛みを抱えて生きている様子が、鮮明に描かれている。この62人は、被害者という言葉で、ひとくくりにされてしまいがちである。しかし、この62人のインタビューからは、被害にあった個人、個人に物語があり、たまたま、事件に巻き込まれた善良な市民というものでは決してないというメッセージが伝わってくる。この圧倒的な量と質を持つ本に目を通し、もう一度あの事件について、無関心という立場から離れ、一緒に悩み考えてほしいと心から思う。大 賞『アンダーグラウンド』村上春樹 著、講談社、2003.

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