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ラフカディオ・ハーン 著;繁尾久 訳、集英社、1992.24楠本 祐希(経済学部 1年)あなたは「耳なし芳一」の話を知っていますか。本書には多くの日本人が幼少の頃より知っているであろう物語が掲載されています。有名な物語としては前述の「耳なし芳一」や「ろくろ首」、「雪女」、「むじな」等があります。「むじな」と言うと聞いた事がない人もいるかと思いますが、有名な「のっぺらぼう」ならどうでしょう。これなら知っている人も多くいるのではないでしょうか。のっぺらぼうとは「むじな」に登場する妖怪変化です。小泉八雲氏の『怪談』はこのような怪奇譚・伝承が収録された怪奇文学作品です。作者である小泉八雲氏はギリシャ出身です。元々の出生名はラフカディオ・ハーンであったが来日し日本人である女性と結婚しました。その後、帰化し日本人になり小泉八雲と改名しました。本書は妻やその周りの者から日本各地の伝説や幽霊話などの怪奇譚を聞いた小泉八雲が独自の解釈を加え執筆した物です。彼はもしかしたら、そのままでは現代まで語り継がれなかったかもしれない怪奇譚を見事な文学作品として蘇らせました。正確には小泉八雲が書いた作品は『怪談』ではなく『Kwaidan』です。晩年の小泉八雲は日本語を話すことは出来るようになっていても日本語で作品を書くことはできなかったのです。もちろん原典である『Kwaidan』は英語で書かれました。つまり、『怪談』には多くの翻訳版が存在します。試しに龍谷大学図書館の蔵書検索に掛けてみました。すると原典と翻訳版を合わせると十一冊の『怪談』があることが分かります。ちなみに私が今までに読んだことのある『怪談』は今回読んだ繁尾久訳の物と高校時代に読んだ田代三千稔訳の物の二冊ですが、この二冊だけでも収録している話に違いがあり、今回初めて知る話もありました。龍谷大学図書館にある翻訳版『怪談』だけでもまだ私の知らない九冊の異なる『怪談』があるのです。翻訳版を読む楽しみはそれぞれの翻訳を読み比べることができるという点もあります。例えば、五十年代に翻訳されたものと九十年代に翻訳されたものを比べると登場人物や地の文の口調や言い回しが違ってきます。それこそ私はまだ読んでいませんが英語で書かれた原典『Kwaidan』を辞書を片手に読むのもいいかもしれません。あなたが解釈したその物語はまさしくあなただけの翻訳版『怪談』になるでしょう。秋の夜長に季節外れの怪談を楽しむのも一興かもしれません。大 賞『怪談』

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