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22図書館長  安藤 徹このたび、昨年度に引き続き開催された第2回「私のお薦め本コンテスト—MyFavoriteBook—」には、計43編の応募がありました。第1回にくらべると応募数が減り、また短期大学部の学生のみなさんからの応募がなかったことは残念ではあるものの、いっぽうで11名の留学生が力作を寄せてくれたことや学部・学年を超えた広がりをたしかに実感できたのはうれしいことでした。まずは、応募してくださったすべての方に感謝します。それにしても、本を薦めるとはいったいどのような行為なのでしょう。ここで、芥川賞作家(大学生のときに発表した作品で受賞)の平野啓一郎さんの発言(*1)に耳を傾けてみましょう。「読書という行為は、読み終わった時点で終わりというのではない。ある意味で、読書は、読み終わったときにこそ本当に始まる」。なぜか。それは、「読んだ本について、他の人とコミュニケーションが取れる」ところに「読書の面白さ」があるからだと、平野さんは言います。読んで感動した本は、まだ読んでいない他の人にもぜひ読んでほしいと思う。あるいは、すでに読んだことのある人と感想を語り合いたいと思う。そのために、本の内容や魅力、そして本から受けた感動や知000000とのコミュ的刺激を自分なりの言葉でうまく伝えたい、伝えようとして、何度も読み直し、本という他者ニケーションを深めていく。さらに、本をめぐって他者とコミュニケーションしながら、自分自身の認識を改めたり、考えをときほぐしたり広げたりする。そうしてまた、本の読み直しが促される。なるほど、読書とは、読書の面白さや深まりとは、「読み終わったときにこそ本当に始まる」のかもしれません。本を薦めるというのは、読書の面白さを他者とともに体験する行為であり、読書を通じて他者そして(新たな)自分と出会うことでもあるのでしょう。このコンテストは、そうしたきっかけをイベントという形でみなさんに提供しているわけです。さて、今回は三原龍志先生(文学部)、杉村繁一図書館事務部長、そして図書館長の私の3名で審査にあたりました。「学生のみなさんが対象図書を読みたくなるような文章かどうか」という視点を想像的に持ちつつも、むしろ「自分自身が読みたくなったかどうか」という点を重視しながら、それぞれに応募作一編一編を評価した、というのが実際のところです。その結果を10点満点で点数化して持ち寄り、総合得点の上位7名の作品を入賞としました。当初、大賞1編と優秀賞4編の計5編を選ぶ予定でしたが、読み応えのある上位作をできるだけ多く表彰したいと考え、大賞2編と優秀賞5編を選出しました。なお、僅差で入賞が叶わなかった作品も多数あったことも申し添えておきます。予算の都合もあって断腸の思いで線引きしなければならず、苦しい判断でした。同時に、それらも含め、応募作を通じて本を薦めてもらう悦びを満喫できたのもたしかです。この悦びをぜひ多くの方にも味わってほしいと願っています。文章で本を薦めるというのは、けっして簡単なことではありません。単に本の内容をまとめただけでも、また自分の感想を言い募るだけでも、人の心を動かし「読みたい」と思わせることはむずかしいでしょう。たしかな文章能力と気の利いた表現(レトリック)も駆使しながら、限られた字数の中で本の魅力と自分の感動とをいかに言語化して伝えてみせるか。まず何よりも大切なのは、「いかに他者を意識した文章を書くか」ということではないかと思います。入賞作は、いずれもそれを一定以上のレベルで実現しています。館長講評本を薦める楽しみ、薦められる悦び

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