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梨木香歩 著、新潮社、2001.18清水 理香(経済学部 現代経済学科 2年)この本は、小説家・児童文学作家である梨木香歩のファンタジー作品である。第一回児童文学ファンタジー対象の受賞作でもある。作品としてはファンタジーなのだけれど、内容は読み進めば読み進むほど奥深くなり、この作品のテーマである「親子のつながり」や「生死」について考えさせられるお話しとなっている。作品の舞台は、戦前に外国人の別荘として使われていた丘の麓のバーンズ屋敷という場所だ。今は誰も住んでおらず、石垣で囲まれた庭は木々が鬱蒼と茂り、荒れ放題になっており、子どもたちの恰好の遊び場となっていた。主人公の照美もその一人だ。照美にはかつて淳という双子の弟がいた。生まれるときのトラブルで軽い知恵遅れで、身体も弱かった純は、六年前に肺炎で亡くなってしまう。照美の両親は小さなレストランを経営しており両親が帰ってくるまでのあいだ、照美は淳も両親もいない家で一人の時間を過ごすことが多くなる。そんなある日、友達の綾子のおじいちゃんからバーンズ屋敷の「裏庭の秘密」と、「裏庭」に通じている鏡のことについて聞かされる。その話をきいて、屋敷に向かった照美は、「裏庭」へと入り込んでしまう。「裏庭」の中で照美は家族について、命について、そして何よりも自分自身の心と向き合い、心の傷を受け入れるための旅に出る。この本は、純粋にファンタジー作品として楽しむこともできるし、この作品のテーマである「親子のつながり」や「生死」といった大きなものについて、子ども、大人、子を持つ親などといった様々な歳や立場の人の視点から見ることができるので、何度読んでも得るもののあるお話だと思う。このお話の中でもう一つ大事なキーワードになっているのが「傷」で、作中には「傷を恐れるな」「傷に支配されるな」「傷は育てなければならない」といった印象的な言葉がある。傷を受け入れて「裏庭」の世界から成長して帰ってきた照美の心の強さは、何度読んでも眩しく感じる。自分と向き合うことは辛くて難しいこともあるかもしれないけれど、自身を受け入れることで成長できることもあると教えてくれる一冊だ。佳 作『裏庭』

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