葉田甲太 著、小学館、2010.17花田 里佳(文学部 日本語日本文学科 1年)この本を手に取った時、まずタイトルに驚くかもしれない。『僕たちは世界を変えることができない。』というタイトルが、あまりにも絶望的な響きを伴っているからである。同時に、「内容も絶望的な物語なのか」と思えてしまうかもしれない。しかし、実際にこの本が絶望的なのかと問われれば、答えは否だ。この本は、そんなタイトルのイメージを、丸ごとひっくり返すエネルギーがある。この本は、ひょんなことから「百五十万円でカンボジアに学校が建つ」ということを知った青年たちが、無我夢中に前へ突き進んでいく話だ。彼らは「カンボジアに学校を建てる」という目的を果たすため、クラブでイベントを企画し、必死に資金を集める。活動を続けるうちに、大きな壁にぶつかることもある。しかしその度に、彼らは自分の中に答えを見つけ出し、前に進み続ける。そういった彼らの活動が描かれたこの本は、言わば「青春ドキュメンタリー」のようなものだ。本を読み進めるにつれて、彼らの真っ直ぐさがとても眩しく見えてくる。イベントの企画に懸命に取り組む彼らの姿は「立派」の一言だ。海外に学校を設立するために、クラブを運営し、お金を稼ぐ。「私とはスケールが全く違う」「私にはこんなことは到底できない」とため息をつきたくなる。けれど、そう思う一方、心の隅に「私は何がしたいんだろう、何ができるんだろう」という問いが、芽生えはじめる。彼らの熱意に惹かれて、自分も何かアクションを起こしたくなるのだ。数ある日本のボランティア活動の中でも、彼らの活動が一際目立ったのは、彼らがエネルギッシュで楽しそうな、等身大の存在だったからだろう。おそらく彼らは、「立派で褒められるべき行為」だから、「カンボジアに学校を建てる」という目標を成し遂げようとしているのではない。彼らの場合、「自分の日常を変えたい、楽しいことがしたい」という思いの延長線上に、「カンボジアに学校を建てる」という目標が存在しているのだ。彼らは普通の大学生で、青年で、人間である。彼らは、自分たちが世界を変えられるとは思っていない。ただ自分の手が届く範囲で、できることを無我夢中に実行しているだけである。そんな彼らの行動や体験は、見るもの全てに勇気を与える。「私にも何か一生懸命に打ち込めることがあるかもしれない」という希望を抱かせてくれる。この本を読んだ人は、自分に秘められた多くの可能性があることを、強く意識するだろう。彼らの青春を、多くの人—特に大学生に、一度見てほしい。この本を読むことは、「自分が何をしたいのか」「自分に何ができるのか」を考える、いい機会になるからである。佳 作『僕たちは世界を変えることができない。』
元のページ ../index.html#19