唯川恵 著、新潮社、2009.15児島 朱音(文学部 史学科 2年)モノクロの表紙が並ぶ返却棚にキラリ。薄桃色のリボンパンプスと、雪の結晶模様の青いハイヒールのイラストを見つけた。色鉛筆で描かれたそれらは、画材の質からふんわりしたタッチであるが、縁取られている線はっきりとしていて、どこか凛とした光のようなものを感じさせる。そのイラストが描かれた表紙には『22歳、季節がひとつ過ぎていく』とタイトルがあった。同年代である私は親近感を抱いて、すぐにその本を手にとった。表紙を開くと同時に、初夏のみずみずしい季節感と、主人公の女子大生の青春のときめきがあふれ出した。将来や恋に悩みながらも、友達とキャンパスライフを楽しむ主人公と一緒に、物語に入り込む。けれど、そんな日々が少しずつ変化する、ある出来事が起きる。心にわだかまりを募らせて、友人や恋人とすれ違っていく日々の中で、主人公は憧れの人物からこのような言葉を投げかけられる。「君はもう22歳になろうとしている。」「自分の言った言葉に対して、責任を持たなくてはならない年齢だよ。」この言葉を読んで、私は自分に言われたかのような錯覚に陥った。主人公と同じように、私も20歳になり大人の仲間入りをしたけれど、未だ自分が何者かも分からず、将来を模索している。日常の中で何度も子どもと大人の境界線を往復しているような感覚にとらわれることさえある。だからこそこの言葉は、そんな曖昧な自身のスタンスに喝を入れてくれるような気がして、心に響いたのだ。特にこの言葉の中の「責任」という二文字が、大人になることの痛みと、それと引き換えに自由を手に入れるためのヒントを教えてくれているようで、痛烈に頭に残っている。このエッセイ小説は、一見して22歳の女子大生の淡い青春の日々を綴った、友情と恋の物語のように感じる。しかし、読み進めれば読み進めるほど、違った意味も感じ取ることができるだろう。今、不安定な世の中で、自分の生きる道に悩み揺れているすべての若者に、この本を送りたい。ひんやりした季節が顔をのぞかせ始めたところで、この小説は終わる。読み終わって気づくのは、表紙の対照的な雰囲気の二足の靴の存在が表す意味だと思う。季節の移ろいを表しているのはもちろんである。けれども、読み終わった人だけは、そこに新たな発見をするだろう。少女のふんわりした面影の中に、女性の凛とした強さが芽生えるこの物語には、色鉛筆なのにくっきりしたイラストのこの表紙が、ぴったりだったのだ、と。佳 作『22歳、季節がひとつ過ぎてゆく』
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