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土光敏夫 著;PHP研究所 編、PHP研究所、2002.13財間 淳也(政策学部 政策学科 1年)私は、入学早々この書を手にした。土光敏夫の名だけは知っていた。そして、「行革の鬼」、「ミスター合理化」などのニつ名通りのイメージで土光敏夫を解釈していた。最初は、何やら数十年前の日本の改革に命を賭した人の伝記なのだなと思いつつ、この書を紐解いていた。しかし、実際には「行革」と一言で表してしまいがちな土光敏夫の真の人間としての精神や考え方、土光敏夫を形造っている「哲学」、「こころ」で満たされている-冊であった。昨今、物質的な豊かさや金銭的な豊かさの尺度が第一であるとの風潮が漂っているが実は人々は心の豊かさや人との関わりといった目に見えない豊かさを本心では欲しているのではないだろうか。それが、特に顕著に表れたのが東日本大震災である。世界屈指の先進国だと信じ続けてきた日本が自然の厳しさを見せつけられ、本当の豊かさは何か、人との関わりは今のままで良いのかなど普段は思考の片鱗も見せない「哲学」が人々へ問いを与えた。しかし今、震災から2年近く経つが、日本人はその「哲学」の問いかけに対して真摯に向き合ってきたと胸を張って言えるのか。私は未だに疑問に思う。そして、この疑問は本書を手に取った2012年5月から何一つ変わっていない。本書では、自ら生きてゆく中で自ら考え、自らを支える哲学、信念を堂々と語りかける。そして自身と世の中に問い続けた土光敏夫のこころの哲学が描かれている。土光敏夫が半生を通して磨き上げた哲学は何か。それは、自らの犠牲を顧みず自らの信念を以って他の為に大胆に行動する。つまり「無私」のこころで他に尽くすことだ。一言で無私と代言しても、漫然と日々を過ごしていると正直、理解し難い哲学であると私は感じた。土光敏夫は、社員を山と抱える大企業の再建や日本の改革を通して、人のこころの声に耳を傾け、人との関わりを通して自らの信念をこころで訴える。そして、他や全体、皆が良くなる方向へ舵取りをすることの肝要さを強調している。その大胆な行動を支えるのは、自身の強固な「哲学」であり、「こころ」なのだ。土光敏夫の言う「無私」の哲学は、ただ単に「私」を捨てれば良いというものではない。本書でもあるように、やましい自分が一切存在しない状態が「無私」である。自分さえ良ければと言う「私心」を薄めてゆくことから始まるのだ。自己をいかにして造るのか、そしてその自己を対他人、対社会で、どのように活かしてゆくのか。そのヒントや理解への助けが本書には沢山記されている。本書は、人の為に何かしたい、自分が何をしたら良いのか分からない、社会や他人とどう向き合えば良いのか悩んでいるという方に、ぜひ手に取ってじっくり読んでみて欲しい一冊だ。そして、自身の存在意義やどう在るべきか、どう生きるべきかを真剣に考え直す絶好の機会となる一冊だ。優秀賞『土光敏夫の哲学:己を律し、信念を貫け』

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