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中江兆民 著;桑原武夫、島田虔次 訳・校注、岩波書店、1965.12辻本 修司(経営学部 経営学科 3年)“正義の話をしようか”、言わずと知れたマイケル・サンデル先生のセリフである。しかしこれに似たことを今から百年以上前に言った人がいた。中江兆民だ。彼は明治の激動のなかを生きた人であった。この本には南海先生、洋学紳士、豪傑という三人の論客が登場する。南海先生の下に洋学紳士と豪傑が集まって政治談議に花を開かせるというものだ。兆民はこの三人に自分の意見を代弁させる。本当の民主国家とは、文明国家とは何か?それをひたすらに追求した作品といえる。彼の言葉は一世紀以上たった今でも少しの遜色も見せない。政権交代や外交問題などが浮上する今だからこそ彼の言葉に耳を傾ける必要があるのではないか?大学生になって来年選挙権を得る者、あるいはもう選挙権を持っている者、いろんな人がいるだろう。しかし、はっきりと未来の展望を持って政党や政治家を支持している人は一体どれほどいるだろうか?私も選挙権を持って初めて真剣に考えた人間の一人だ。政治批判をしても、こんな政策をすればいい、あんな外交をすればいいと自分の意見をしっかり論理的に話せる人はあまりいないのではないかと私は思う。しかし、政治家が選挙によって選ばれ、選ぶ権利を我々が持っている限り私たちはこの問題から目を背けることはできない。むろん、大学は専門分野を学ぶ場所だ。政治学は自分の専攻ではないというものいるだろう。あるいは何をすればいいのかわからないというものもいるだろう。それも一理ある。自分の専攻分野を逸脱してまで、考えることではない。では、なぜ私はこの本を薦めるのだろうか?それはこの本の趣旨が大きな意味を持っているからだ。この本は別に難しい内容の評論文ではない。登場人物の三人が話し合って、民主主義国家の可能性について追及していくのである。今政治に関心を持っていない人は、もしかしたら政治に可能性を見出しきれていないのではないかと思う。兆民が生きた時代も、思い通りに生きられない時代であったと思う。民主主義といいながら、選挙権があるのは一定以上の税金を払った人だけだし、政党の結党は規制される。特に兆民の時代は政党に対する弾圧がひどかった時代だ。兆民自身も東京から追放されるという事態に追いやられている。そういう時代にあっても、兆民は民主主義国家の可能性を追求し続けた。私は人生に一度は読んでおきたい本として、この本を推薦する。優秀賞『三酔人経綸問答』

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